要するに政局とは「多数派工作」
学者や有識者は「政局はいらない。政策を報道すべきだ」と言うけれど、私が政治ジャーナリストとして講演する時は「政策より政局」が決まって評判がいい。多くの人々にとって「政策より政局」のほうがはるかに身近なものなのだ。
ヒトが3人以上集めれば、政局はどこにでも発生する。会社のオフィスでも、自治会やPTAの集会でも、そして家庭内でも。お父さん、お母さん、子どもの3人家族なら、2人が結託したほうが大概は勝つ。要するに政局とは「多数派工作」だ。
ぜひ政治家の仁義なき権力闘争を参考にして、皆さんの身近な政局に勝利してほしい――そんな前触れで永田町の権力闘争についてあけすけに講演すると、ほとんどの人が笑いながら興味津々に耳を傾けてくれる。
自民党の政治家が総理総裁になるには、党内の過半数の支持を得て、総裁選に勝利しなければならない。そこで多数派をつくるために仲間を集める過程で生まれたのが「派閥」である。
総理総裁を目指す派閥の「親分」は、お金と選挙と人事を後押しすることで派閥の「子分」を集める。その代わりに「子分」たちは「親分」を総裁選に担いで懸命に応援する。鎌倉武士の「御恩と奉公」の関係に近い。現代流に言えば、ギブ・アンド・テイクだ。
負ければ賊軍、徹底的に干し上げられる
各派閥は多数派工作を繰り広げて総裁候補を絞り込み、最後に過半数の支持を得た政治家が総理総裁になる。勝てば官軍。子分たちは多くの分け前(人事ポスト)にありつける。負ければ賊軍。徹底的に干し上げられる。
一般社会では「負け組」にも憲法で基本的人権が保障され、不十分ながら社会保障制度というセーフティーネットが用意されている。しかし永田町は負け組に容赦がない。弱い親分に付き従えば、自分自身がやせ細る弱肉強食の世界なのだ。
岸田文雄首相は老舗派閥・宏池会(岸田派)の解散を表明し、最大派閥・安倍派(清和会)、二階派、森山派が続いて解散を決めた。
自民党は「派閥解散」花盛りで、派閥存続を表明した麻生派と茂木派へ寒風が吹きつけている。派閥の政治資金パーティーを舞台とした裏金事件で高まる自民党批判を「派閥解散」でかわす岸田首相の狙いは、今のところ的中したといっていい。