第5科の「書」が日展の台所を支えている

抜本的な改革が行われなかった要因にはもう1つ、日展における「書」の存在の大きさが挙げられます。

書をたしなむ人口は300万人とも400万人とも言われ、書道教室などが全国に設置され、裾野が広いビジネスと言えます。

2022年8月に発表された総務省統計局の「令和3年 社会生活基本調査」によると、「趣味・娯楽」の中の「書道」の行動者数(実際に行動したことのある10歳以上の国民数)は381万人に上ります。

5年前の2016年の調査時の463万人に比べると、18%の減少ですが、華道の142万人、茶道の92万人を大きく上回っています。絵画・彫刻の制作人口は385万人、陶芸・工芸は181万人で、人気があるのは書道と絵画のようです。

公益社団法人日展の2023年3月期の2億7333万円の事業収入のうち、77.5%が展覧会事業収入で、残りは出版事業収入です。出版事業も『日展の書』『日展の日本画』『日展の洋画』など、展覧会の図録が中心です。

2023年の日展の5つの部門(日本画、洋画、彫刻、工芸美術、書)の総応募数は1万1328点。そのうち書は8822点で、78%を占めています。日展の入選者2369人のうち、書は1112人に上り、入選者の約47%に達しています。

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芥川賞や直木賞が、ある出版社に独占されていたら…

日展にとって、書は一大勢力になっています。応募するのに1点当たり1万2000円の出品料がかかり、展覧会の入場者の過半は書の関係者。日本最大の美術展を運営する日展は、書に大きく依存しているわけです。

第9回(2022年)の日展の入場者数は、東京の国立新美術館と、地方の3カ所の巡回展を含め16万8988人でした。入選した人、特選受賞者、日展会員などが弟子や知人を誘って、展覧会に足を運んだと思われます。

「日展に入選しました」となれば、盛大なお祝いの会を開催するほど名誉なことで、「日展書家」の看板を掲げられますが、問題は、読売書法会を構成する日本書芸院と謙慎書道会という2つの団体で、日展の第5科(書)の審査員、入選者、特選受賞者の85%前後を「輩出」し続けていることです。

もし、芥川賞や直木賞を1つの出版社あるいは2つの出版社が独占していたら、どうでしょうか。そうであれば、芥川賞も、直木賞もここまで権威はなかったはずです。