コラージュ作家のBは自身の作品にマスキングテープを使う以外に封筒を可愛く見せるために同テープを利用していた。グラフィックデザイナーのCはBのこうしたテープの使い方に関心を持っていた。こうして3人は06年のある日、マスキングテープの使い方が話題になったのをきっかけに、それを共通の話題として話すようになる。

ある日、自主制作本を発行していたCはAとBに3人でマスキングテープについての本を作り、2週間後にカフェで予定されていたミニコミ誌の展示会に並べようと提案する。できた本は同テープの日常生活での利用法、きれいに書ける筆記具との相性、ホームセンターへの買い出しツアー記を内容とするものでMasking Tape Guide Book(以下MTGB)というタイトルがつけられた。本は展示会で販売され、初版100冊が2週間で完売しただけでなくその後、累計400部を超えるまでになった。

アイデアをチャンスにする3つの条件

展示会での好評を受け、3人は第2弾を企画し、マスキングテープの工場見学レポートを自主制作本の中に盛り込むことを計画する。実はこのとき3人が本の制作にあたって工場見学を依頼するメールを送ったのが先述のカモ井であった。

その後、カモ井は3人からの工場見学の依頼を受け入れ彼女たちとのやりとりから本格的に雑貨用途向けマスキングテープの事業化に取り組むようになる。カモ井の運命を変えることになる、工場見学の依頼を受けることを決める直接的出来事はMTGBが送られてきたことだった。MTGBの内容が、彼女たちに会えば縮小傾向にある和紙材のマスキングテープの新たな市場機会につながるヒントをもらえるのではないかと思わせるものだったからだ。

実はMTGBはカモ井だけに送られたものではなかった。3人がマスキングテープを使った作品展を開催する企画をした際、カモ井を含む国内主要メーカー8社に対しMTGBを同封して企業協賛を依頼する文書を送っていた。つまり雑貨用途という新市場を知る機会はどの国内メーカーにも与えられていたのだ。