「都心に近い」方がよいのか

一般に、都心に近ければ通勤時間は短くなる。職場に近い場所で暮らしてもらうように、住宅手当や、社員寮などを準備する会社もある。ただそれ自体は、職場での従業員のパフォーマンスをよりよくするためであり、悪くいえば従業員を管理するためにそうしていると考えたほうがいいだろう。

個人視点での沿線・居住地域選びでは、そういった考えを採用することはない。都心に近い場所は、生活環境のよい場所ではないことも多く、賃貸物件なら狭いことも多い。

職場に近い場所に暮らしていることを採用の判断にするところもあるかもしれないが、そういうところが個人を大切にするとは思えない。むしろ、都心の職場とは一定の距離があったほうが、オン・オフの切り替えができていいのだ。

また、都心に近い駅が生活環境にすぐれているか、ということも指摘できる。たとえば無料の優等列車が停車する駅のまわりには、大きな商業施設など生活に必要な諸施設が多くあるケースが多い。それより都心寄りの各駅停車のみ停車する駅では、単なる住宅街だったりすることもある。ここで挙げる都心に近い駅の場合、定期券代が安くなるというメリットはあるが、生活者の観点からは不便であることはよくわかるだろう。また、優等列車が停車しないことで、外出する際にも各駅停車が10分に1本しかないという事態になる。しかも優等列車と接続する駅は数駅先だ、という事態さえあり得る。

東急東横線や東急田園都市線のように、全駅に停車する列車でも駅間距離などが長く、緩急接続もしっかりしているために、そこそこ速くて利便性が高い、というケースばかりではない。

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おすすめは住環境のいい路線・駅

京王線のように、駅間距離が短く、細かく停車して乗客を集めるという路線もあるのだ。

どの沿線であれ、都心から離れていても住環境のいい路線・駅のほうが、おすすめできるとしか言いようがないのである。

だから、沿線というものについてよく考える必要があり、どこに住むかは沿線を見ないと判断できない。一定の年齢になれば、1人用の賃貸暮らしから持ち家に、持ち家でなくても結婚したり、子どもができたりということがある。その際にどの沿線に暮らすかは、生活の質を考えるうえで重要なことであり、職場、とくに都心の職場への利便性ばかり考えるわけにはいかない。

まして、テレワークが導入されるようになった現状で、生活環境を重視することは、当然ではないだろうか。