どの私鉄沿線に住むのがよいのか。鉄道、時事社会メディアをテーマに執筆するフリーライターの小林拓矢さんは「都市社会学の研究から同じ都市圏のなかで似たようなタイプの人が同じ地域に住むということが示されている。したがって東京圏でどこかに住もうというときには、自身の立場や考え方に見合った沿線を選ぶことが重要だ」という――。(第4回)

※本稿は、小林拓矢『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)の一部を再編集したものです。

田園都市線は自家用車がない人にはちょっと不便

ある場所が豊かかどうかは、不動産価格、とくに地価だけで決まるものではない。「暮らしやすさ」という視点から見ると、もっとそうだろう。都心部の地価は郊外に比べて高く、郊外で都心から同等の距離であっても、地域により地価が高かったり、安かったりする。

不動産価格は、資産としての価値を示すものであり、その場所が快適かどうかを示すものではない。ある沿線の不動産価格が高いからといって、そこに資産価値があり、そこに住むことがリッチであることを示すからおすすめする、という安直あんちょくな考えは採用しないのだ。

大事なのは、生活環境である。生活を送っていくうえで必要な商業施設などが充実しているか、公園などが整備されているか、自家用車が必須か、自家用車がなくても公共交通機関だけで何とかなるか、といったことが重視されてくる。

たとえば東急田園都市線沿線は、鉄道で都心に通勤する人を対象としているが、同時に自動車を使用することも念頭に置いてまちづくりがなされている。京王相模原線沿線や小田急多摩線沿線の多摩ニュータウンも同様だ。

確かに田園都市線沿線は暮らしやすいけれど、自家用車を持っていない人にはちょっと不便なところがある。自宅が駅徒歩圏内ならまだいいが、駅からバスで自宅近くまでというのは、少々つらいだろう。

車の運転
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大切なのはみずからのライフスタイルに合った沿線選び

「沿線」といってもいろいろあるが、人により鉄道をどう使うか、あるいは自家用車をどう使うかはまったく異なるものであり、とくに近年の東京圏生活者は車を買わないペーパードライバーであることが多いため、不動産価格は高いが、日常生活に自家用車が必要な田園調布(東急東横線沿線)などは、生活していくのに不便であるということも考えられる。

大切なのは、みずからのライフスタイルを自覚し、それに合った沿線に暮らすことである。

不動産価格だけを指標にし、頑張ってこの沿線の、この駅周辺に暮らすべく努力するというのは、単身者ならまだしも、ファミリー層にとっては難しいだろう。

どの沿線にもそれなりに快適なところや便利なところはあり、そうではないところもある。

将来、不動産価格の上昇を見越して物件を買うということが、とくにマンション購入者の間で行なわれている現状はあるものの、それがいいとは限らない。それならば、子どもの教育のためによりよい環境を求めて引っ越しをする、というほうがまだわかる。

各沿線の性格などを見て、総合的に判断して自身でどの沿線に住むか、どの駅近くに住むかということを考えるのが、もっとも妥当だとうな沿線選び、不動産選びであると考えられる。