東京都内の住宅地では、私鉄の沿線ごとにライフスタイルが異なる。フリーライターの小林拓矢さんは「東急電鉄の沿線には分かりやすいライフスタイルがあり、大卒者が多く塾などの教育機関も充実している。こうした地域に生まれ育てば裕福な暮らしや充実した教育を受けられる可能性が高いが、世代を追うごとにそのほかの地域との格差が開いている現状がある」という――。(第2回)

※本稿は、小林拓矢『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)の一部を再編集したものです。

東京の住宅街にある高層マンション
写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
※写真はイメージです

東京は「中心がオフィス、周辺が住宅」という形ではない

東京圏は皇居を中心に、官庁街やオフィス街があり、その外側に住宅街がある、という形態ではない。確かに東京の中心部というのはあるが、中心部でもターミナルごとに多極化しており、そこにターミナルを構える私鉄も、多様な路線となっている。「均一に、同心円状に都市圏が広がっている」というわけではないのだ。

都市社会学ではアーネスト・バージェスの同心円地帯理論のほかに、ホーマー・ホイトのセクター理論、チョンシー・ハリスとエドワード・ウルマンの多核心理論が、都市空間のモデルとして提示されている。現実の東京都市圏は、これらの諸理論を組み合わせて考えることが可能だ。

ホイトのセクター理論は、中心点から等距離にあっても、方向によっては地域の性格が違うことを示している。特定のタイプの地域が一定の方向に向かって外延がいえん部へと移動していると指摘しているのだ。その一例として、鉄道の沿線を挙げる。このような沿線は、東急電鉄の沿線、とくに東急田園都市線に当てはまると考えていい。

ハリスとウルマンの多核心理論は、都市の土地利用は複数の核の周囲に広がるということを示している。これは、主要私鉄のターミナル駅を表すのにふさわしい理論ではないかと筆者は考える。まず東京圏は、中心から郊外へと広がるように見えるものの、その広がり方は一様ではない。沿線ごとに特性があり、工業地帯や住宅地帯それぞれで違いがある。