貧しい人ほど中心部に住む傾向がある

また、各私鉄のターミナルがそれぞれの地域の核となっているケースはよく見られる。

山手線内に住宅街がある一方、その外側に商業エリアがあったり、あるいは工業エリアがあったりする。さらに、その外側に住宅が多くあるエリアもある。工業といっても、さまざまである。町工場のような小規模なものから、京浜工業地帯の巨大な工場まで、地域によりどんな工業が存在するか違いがある。小規模であるならば、住宅街と共存していることが多い。これらの違いが、沿線によって多様であり、東京圏が均一でないことを示している。

この項目で挙げた都市社会学の3つのモデルでは、中心の業務地区や商工業者のいる地区のほかに、下層階級・中産階級・上層階級それぞれの住宅地があり、モデルによっては郊外の通勤者向けの住宅地がある。そして、階級・階層ごとに、どこに住むかが分けられているという特徴がある。

そして意外なことに、図式的に考えると、貧しい人たちは中心部に住む傾向があり、豊かな人たちは郊外に住む傾向がある。わかりやすいのが田園調布だ。

東急東横線沿線のこの地域は、もともとは豊かで学のある層向けの住宅地として開発された。いまでは都心部からの距離も近いように思えるが、当時は都心から遠く離れていた。一方で、東武や京成の東京都内エリアは、木造住宅が密集し、中小の商工業者と昔からの住民がいるというエリアだ。とくに東武の北千住より南側はそういった要素が強い。

夜の東京
写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
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タワマン住みのパワーカップルは裕福なのか

「沿線」という概念のない都心近くのエリアには、商工業地域と密接に絡み合った住宅地があり、古くからの人が暮らしている。

こういったエリアは、地価や固定資産税は高く、その対策のためにマンションやアパートなどが多く建てられるようになる。そこに若い独身者などが暮らし、職場との行き来が中心の生活を送るようになる。仕事にあくせく追われ、残業も多いが給料は少なく、家では寝るだけ、という人物像が見てとれるだろう。

しかも、その住まいが利回り第一の投資用物件であるならば、もはや「さまざまなところから搾取さくしゅされている」と考えるようになってもおかしくはない。このような人たちが暮らしている地域が、都心の近くにある。よくパワーカップル(高収入を得ている共働き夫婦)が都心近くのタワーマンションに暮らしているという話があるが、もし、その住宅ローンの返済にあくせくしているのであれば、本質的には投資用物件に住む若い独身者と変わりはない。

また、企業の経営者などが港区のタワーマンションに暮らしているという反論もあるものの、これこそ仕事上の必要性に迫られて暮らしていると考えたほうが妥当だ。都心部やその近くではなく、都心から離れた住宅地でゆったりとした暮らしを送るほうが、実質的には豊かではないかと筆者は強く思っている。