沿線は文化資本の一部になっている

東京圏は、格差と不平等の一大展示場である。地域によってどんな人がいて、どんなライフスタイルがあるかがまったく異なっている。そして不平等は再生産される現実がある。ある人が何を好むかというのは、学歴や職業、収入などといった社会階層にまつわる指標と関連しているというのはよくいわれる。これらは一種の「資本」ととらえていい。

このあたりの議論は、社会学者ピエール・ブルデューが、「文化資本」の概念を中心として議論を組み立てているものである。上位の社会階層の子どもは、下位の社会階層の子どもよりも進学で優位に立っている背景に、上位の社会階層の子どもが触れる「文化資本」の豊かさがあるというものである。

下位の社会階層の人が触れられるものよりも、上位の社会階層の人が触れられるもののほうがいいものが多く、それは教育においてもいえるということだ。沿線によって、これらには大きな差があるといえる。この再生産においては、教育が上位の階層の文化を評価する傾向が高く、上位の階層の子どもが上位の階層に再生産される傾向があるといえる。

難関大卒者の子どもが難関大学に行くというのが、このパターンである。近年、SNSを中心にバズワードとして知られる「文化資本」という言葉は、もともとはこういった傾向を示すものだったのだ。その「文化資本」が蓄積された沿線と、そうでない沿線の違いというのがある。

資本による格差は「沿線二世」を生み出している

このほかにも「資本」という言葉で知られるのは、「経済資本」と「社会関係資本」である。

「経済資本」というのは資産のことである。現代では、資産があればあるほど、お金を得やすいという傾向がある。経済学者トマ・ピケティは、現代では労働により経済成長して得られる収益よりも、株式や不動産の運用によって得られる収益のほうが大きく、資本を持っている人が、より資本を持つようになっていることを示している。経済的に豊かな層は、土地や株式の運用で収入を得ていることが多い。

私鉄各線の沿線では、ニュータウンでもない限り古くからの地主がおり、そういった人たちがみずからの土地に賃貸マンションなどを建てて大きな収入を得ていることが多い。新たに開発したニュータウンでもない住宅地には、そのような賃貸物件が多くある。こういった地主層は、地域では富裕層として存在している。賃貸物件が多くある沿線には、そういった地主がおり、地域では中心的な役割を果たしている。

小林拓矢『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)

沿線で長いこと暮らしていると、地域に人脈ができる。よりよい職場に勤めていると、そこから派生する人間関係ができる。これが「社会関係資本」である。よりよいところで、よりよい人間関係ができるというのはわかりやすい。

人間関係の豊かさが、その人の社会階層の向上に寄与し、進学や就職などの際に有利になることに働きかけるようになるという構造がある。そのような要素が組み合わされることによって、「資本」に恵まれる人・恵まれない人というのができあがることになる。その総体が不平等というシステムの構成要素であり、格差の原因となっている。

各沿線においても、こうした「再生産」活動は多く見られる。そして「沿線格差」が「沿線格差」を再生産し、「沿線二世」が誕生することになる。不平等とその再生産は社会構造において根深く組みこまれており、それは「沿線格差」のしくみを考えるうえで重要なものになっている。

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