TSMCに頼らざるを得ない状況はしばらく続くか

しかし、今回の報道によって、中国メーカーは回路線幅5ナノメートルの製造能力の実装に手間取っていることが示唆された。それによって、「中国の半導体製造能力の発展は急速」という見方はいくぶんか後退しただろう。

CSISの報告によると、2021年7月の時点でSMICはEUV(極端紫外線)を使わずに7ナノメートルのチップを製造していた。昨年8月のMate 60 Proの発表時点での良品割合は50%程度だったようだ。2021年7月時点における中国の半導体製造の発展レベルは、試験的な生産と位置付けるべきかもしれない。

そこから2年以上の時間が経過したが、報道に基づく限り、現時点で5ナノメートルの回路線幅をSMICが自力で製造し、最終製品に搭載することは容易ではないとみられる。ファーウェイは、2020年7月~9月期にTSMCから調達した回路線幅5ナノメートルのキリンチップの在庫を使わざるを得なかったとみられる。

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技術停滞を投資家も警戒している

なお、TSMCは、回路線幅7ナノから5ナノへ製造技術の進歩を実現するため約2年の時間がかかった。7ナノの試験生産を開始したのは2017年、量産は2018年頃。2020年初めに5ナノ量産体制を確立し、微細化も加速した。

現時点で、SMICなど中国の半導体製造能力は、そうした加速度的な発展を実現するには至っていないようだ。米国は、これまで以上に先端レベルのチップ(メモリー、ロジック、GPU、パワー半導体)、半導体の製造装置や関連部材、知的財産の中国への流出を防ぐ対策を強化するだろう。

1月8日、香港の株式市場の序盤でSMIC株は下落した。中国半導体産業の製造技術の発展に追加的な時間とコストがかかるとの懸念は高まった。

中国政府はそうした状況を克服するために、ファーウェイやSMICなどに対する支援を強化するはずだ。世界トップレベルにあるAIや量子計算技術などの研究開発の支援も強化される可能性は高い。中国は、あらゆる手を用いて先端半導体の製造技術の遅れを挽回し、内製化を急ぐだろう。