数々の制裁を科されながら製造力を高めてきた

世界経済のデジタル化とともに、あらゆる分野で戦略物資として半導体の重要性は高まった。2018年春以降、米国政府は半導体など先端分野で中国の製造技術の発展を防ぐため、制裁関税や禁輸措置などを強化した。特に、5G通信基地局などの分野で世界トップシェアを誇ったファーウェイへの制裁は強まった。

2022年10月、バイデン政権は回路線幅14ナノメートル以下のロジックなど先端半導体、その製造に用いられる装置も禁輸対象に指定した。半導体製造装置に関しては、日米蘭の連携も強まった。一時、中国の半導体製造技術の開発は困難になったかに思われた。

2023年8月、その見方を覆す出来事が起きた。ファーウェイが最新スマホの“Mate 60 Pro”を発表した。Mate 60 Proは回路線幅7ナノメートルの“キリン9000s”チップを搭載し、5G相当の通信にも対応した。キリン9000sの設計・開発は傘下のハイシリコン、製造はSMICが行った。

「5ナノチップ」実現も時間の問題とみられていたが…

2023年10月に米戦略国際問題研究所(CSIS)が公表した報告書によると、ファーウェイやSMICなどは、ペーパーカンパニーをつくって米国などの半導体製造技術を入手した。回路の設計と開発に関しては、米国のソフトウェアのコピー(海賊版)も用いた。

SMICは、28ナノメートルの回路線幅を形成する装置を使って7ナノ製品を製造した。また、中国は需要に関係なく、日米欧メーカーの製造装置などを買い増したことも報告された。世界は、中国政府の先端分野における製造技術向上への執着心の強さを見せつけられた。

Mate 60 Proの発表をきっかけに、米国では、それまでの制裁の効果が想定通りではなかったとの見方が増えた。中国の半導体製造技術の発展は想定を上回り、5ナノのチップ製造も時間の問題との懸念は高まった。

中国の半導体製造技術の向上に伴って、米国の経済安全保障体制の不安定感は増すとの警戒感も上昇した。AI(人工知能)に対応した、GPU(画像処理半導体)の対中輸出をより強く規制すべきとの議論は熱を帯びた。