広告と販促の組み合わせで購入率は2.3倍

結果として、単純な広告接触の有無でも購入率に61%の差が出た。さらに20円引きになるクーポンを併せて配信した場合には、購入率が2.3倍も高かった。こうした事例を通じて、「アプリの購買データを基にした広告と販促を組み合わせることで、大きく売り上げを伸ばせた。この取り組みに手応えを感じた」(杉浦氏)ことが、リテールメディア開発の決断を後押しした。

セブン‐イレブン・ジャパンはリテールメディアの本格提供の検討を進めるため、22年3月にメーカーとテストを実施。そのテストなどで効果が実証されたため、メーカー側からも評判の声が上がり始めた。特に、リテールメディアならではの認知から購買までを一貫してデータ分析可能という点は、広告の投資対効果を明確化できるため好評だという。そこで、事業化を決め、「リテールメディア推進部」という専門部署を設置した。同推進部には18人が所属しているという。

具体的な活用例は次のようなイメージだ。「新規顧客を獲得したい」というニーズを持つメーカーが広告主となる場合には、「類似カテゴリーの商品購入経験はあるが対象商品の購入経験がない層」「過去に商品購入経験はあるものの直近の数カ月間は購入していない離反層」など、3~4パターンのセグメントを広告の配信対象として抽出する。

セブン‐イレブン・ジャパンはアプリの購買データを活用して、辛みが効いたフライドチキン商品「ななチキレッド」の販促施策を実施。売り上げ貢献に大きく寄与した(出典=『小売り広告の新市場 リテールメディア』)

「セブン‐イレブンアプリ」利用者数は2000万人

広告の配信先は、主にオウンドメディアであるセブン‐イレブンアプリを活用する。リテールメディアで課題に上がりがちなのが、配信規模だ。ダウンロード件数は数百万であっても、月間利用率は数十%。そのうち毎日起動する層は……と深掘りしていくと、広告配信が可能な規模が絞られてしまうことは多い。

一方、セブン‐イレブンアプリは利用者数が約2000万人と桁が1つ多い。さらに「当社のアプリはDAU(1日当たりの利用者数)の規模が大きい。LINEなどのようなコミュニケーションアプリを除けば、これほど頻度が高く利用される小売りのアプリはない。高頻度で使われるコンビニのアプリという点が、リテールメディアでは強みになる」と杉浦氏は自信をのぞかせる。セブン‐イレブン・ジャパンの規模だからこそ、単独の広告事業として成立している面もありそうだ。

購買データで抽出した層に対して、セブン‐イレブンアプリ上に設置した広告枠に、バナー広告を配信する。配信期間は1~2週間であることが多いという。広告クリエイティブはセブン‐イレブン・ジャパンが制作を代行するケース、広告代理店から入稿を受け付けるケースなどさまざまだ。配信した広告からはメーカーが設置したLP(ランディングページ)などに誘導して、商品の特徴や訴求ポイントを伝える。