なぜ人によって配信されるクーポンが違うのか

併せて、クーポンを活用した販促施策を並行して実施することもある。ただし、配信するクーポンは一律ではない。購入経験のある層は商品の便益を理解しているため割引額が少ないクーポンを送り、純粋な新規顧客には割引額が大きいクーポンを送るといった具合に出し分ける。こうして、顧客層に合わせてクーポンを適正に出し分けることで、販促費も効率的に活用する。

広告効果は購買データで分析する。広告接触後、実際に商品を購入した新規顧客の比率はどれぐらいだったのかなど、直接的な購買への貢献度合いで測れる点はリテールメディアならではだろう。さらに、その新規顧客がその後、リピート購入しているかどうかもリポーティングする。単なる購買だけでなく、広告経由で取得した顧客のリピート率までデータとして提供されるため、中長期的な広告の残存効果を分析できる。

もしリピート購入につながらなかった場合は、その後に継続的なアプローチも可能だ。具体的には、1回購入したものの、F2転換(2回目の購入)しなかった層に絞って、クーポンを配信するといった具合だ。こうしたリターゲティング広告的な活用も、すでに実績があるという。「広告と販促をうまく組み合わせることで、継続的な購入率の向上にもつながる」と杉浦氏は説明する。こうした、リテールメディア活用の全体をリテールメディア推進部でサポートしながら、施策を進めている。

セブン‐イレブン・ジャパンは広告接触による購入率の変化、リピート購入率などを出稿主にリポートする
セブン‐イレブン・ジャパンは広告接触による購入率の変化、リピート購入率などを出稿主にリポートする。購買データを基に広告効果を評価できる点が、リテールメディアならではだ(出典=『小売り広告の新市場 リテールメディア』)

「デジタル専門部隊」ではない

セブン‐イレブン・ジャパンのリテールメディア推進部が画期的な点は、設立時に商品本部の傘下に設置したことだ。商品本部には商品開発部門と販売促進部門(マーケティング部門)がある。顧客のニーズに合わせ商品開発や品ぞろえ、販促キャンペーンの企画などをメーカーに立案する部隊だ。

デジタル系の新興組織は往々にして、DX(デジタルトランスフォーメション)推進部や新規事業開発室の傘下などに、「デジタル専門部隊」として設置されることが多い。しかし、リテールメディア事業部門がそうした位置付けで設置された場合、商品本部から見れば、これまで長年交渉して獲得してきたメーカーの販促費を、異なる部署に奪われるという感覚を覚え、社内で競合しかねない。

「リテールメディアはメーカーのマーケティング課題に応えること。それには販促も含めると、商品本部との連携が肝になる」(杉浦氏)という発想の下、商品本部の傘下に設置することを決めた。このことはリテールメディアにかかわる専門家や、小売事業者から見ても理にかなっていると評価が高い。