「レシピ通りにやったのに」続くトライアル&エラー

大和フロンティアが畜産試験場から笹サイレージの製法を学び、自社で製品化にトライし始めたのは2015年。製造工程は、大まかにこうだ。

笹サイレージの製造工程
1.生竹(孟宗竹が最適)を伐採する
2.伐採した生竹を粉砕する
3.粉砕した生竹に糖蜜・乳酸菌・水を加える
4.攪拌かくはんする
5.圧縮する
6.ロール状に成型する
7.特殊なビニールで包装し密閉する
8.保管して発酵させる

「畜産試験場のレシピ通りに製造したところ、うまくいきませんでした。畜産試験場の粉砕機は目が粗く、同じ粗さで粉砕すると、竹の繊維がビニールを破り、そこからカビが生えてきたのです」

ならばと細かく粉砕したところ、今度は細かすぎて圧縮しても崩れてしまう。さらにレシピ通りの糖蜜を加えると量が多く、またもカビが発生した。

撮影=水野さちえ
粉砕した生竹に糖蜜・乳酸菌・水を加えて攪拌していく

「今思うと、実験的なサンプルと量産用の製法は大きく異なりました。細かく粉砕した竹が、成型できずに目の前でボロボロと崩れたときは、『これは商品化できないかもしれない……』と思いましたが、エラーが出るたびに兄と話し合ったり、畜産試験場や宮崎大学の研究者に相談したりして、一つひとつ解決していきました。私たちも、既に重機を導入していたので必死でした」

撮影=水野さちえ
ロール状に成型された笹サイレージ
撮影=水野さちえ
特殊なビニールで包装される笹サイレージ

身銭を切って学ぶ田中兄弟の姿に、地元の有識者たちは協力を惜しまなかったという。投入する糖蜜の量や撹拌のタイミング、圧縮時の機械の調整などを細かく見直し、ついに商品化に成功した。製造に関する特許も取得し、2016年に笹サイレージの販売を開始した。ところが……。

「餌を変えて、大切な牛に何かあったらどうする」

2016年に発売した笹サイレージは、販売先が見つからなかった。

「まずは飼料として使ってもらおうと、鋸屑の取引先に打診しましたが、ことごとく断られました。『餌を変えて、大切な牛に何かあったらどうする』と言うのです。肥育農家は主に中国産の稲わらを使っており、値段は1kg当たり30円台でした。笹サイレージは350kgのロールを1万円、つまり1kg当たり28円ほどで価格設定をし、『乳酸菌が豊富で栄養価が優れている』という畜産試験場のデータも紹介したのですが、だめでした」

撮影=水野さちえ
出荷を待つ笹サイレージ

肥育農家が、餌の切り替えに抵抗を示すのも無理はなかった。特に牛は2年近くかけて育てるため、餌を変えることで大切に育てた牛の食欲が落ちたり、肉質が変わったりするリスクを恐れたのだ。

販売ルートがなければ、すべては無駄骨だ。だが、そんな窮地の田中さんたちに思わぬ助っ人が現れる。

「同じころに地元の都城市が放置竹林対策支援事業を立ち上げて、補助金を設定してくれました。放置竹林を活用した飼料や肥料の購入に対して、3年間半額を補助するというものです。このおかげで、少しずつ肥育農家が笹サイレージを使ってくれるようになりました」