「政治におけるレーニン主義が中国の経済政策を支配」

世界で最も民主主義の歴史が長い英国が香港の希望を尋ねることなく、世界最大の全体主義国家に引き渡したのはなぜかとの道義的な問いは今も消えない。パッテン氏は「鄧小平が台湾のために設計したマントラである一国二制度を香港返還にも当てはめれば機能すると仮定する以外、方法がなかった」と当時を振り返った。

「トニー・ブレア元英首相が後に語ったように『中国はわれわれと似たような国になる』『経済発展、技術発展が必然的に政治的発展をもたらす』という仮定を私自身も少しは抱いていた。韓国やアジア諸国は経済を開放することで中所得国の罠から抜け出した。香港も返還後、中国共産党の干渉はあったものの、(方向性は)大きく変わらなかった」

転換点は習氏の登場だ。「習氏は中国がハイテク企業の成長や環境やジェンダーなどの分野における市民社会の発展によって中国共産党の権威が脅かされるようになった場合、中国をコントロールし続けることができるかどうか、非常に神経質になった。重慶の共産党トップだった薄煕来が指導部に食い込もうとしたことも中国指導部を神経質にさせた」

「われわれは今、ポスト・ピーク中国に対処している。以前は中国の成長はすぐに米国を上回る経済規模になると論じられていた。しかし政治におけるレーニン主義が中国の経済政策を支配している。習氏は民間部門が手に入れた自由を取り上げようと決意し、国有企業が中国経済を支配する。そして不動産セクターは巨大なネズミ講と化した」

パッテン氏は「中国は(国民一人ひとりが)豊かになる前に老いると人々は何年も前から言ってきた。それは本当だ」と断言する。「狼」の本性を今さら「羊」の皮で覆い隠そうとする習氏の変化を額面通り受け取るわけにはいかない。

原油価格が高騰すれば軍事行動に出るウラジーミル・プーチン露大統領と同じで、習氏も中国が成長力を取り戻せば「狼」に逆戻りするのは自明の理だからだ。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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