事前に情報を集め、選択肢を増やすようになる
また、ガリンスキーがカリフォルニア大学バークレー校のローラ・クレイ、オハイオ大学のキース・マークマンとおこなった研究によれば、過去の交渉を振り返り、どのような行動を取らなかったことを後悔しているかを考えた人は、その後の交渉でよりよい意思決定ができるという。
いくつかの研究によると、最も大きな好影響は、いわば「意思決定の衛生環境」が向上し、健全な意思決定を妨げる要因が減ることだ。後悔の感情を深くいだくと、意思決定のプロセスが改善される。マイナスの感情がもたらす痛みにより、意思決定のペースが減速するからだ。
それまでよりたくさんの情報を集めたり、幅広い選択肢を検討したりするようになり、結論を導き出すまでにじっくり時間をかけるようになる。より慎重に段階を踏むようになる結果、確証バイアスなどの認知上の落とし穴にはまりにくくなるのである。ある研究でCEOたちに過去の後悔について考えるよう促したところ、「将来の意思決定に好ましい影響が及ぶ」ことがわかった。
後悔すると、人は粘り強くなる
2.課題に対するパフォーマンスが向上する
アナグラム(言葉や単語の文字を並び替えてほかの言葉を作ること)は心理学研究の定番の素材と言ってもいい。
たとえば、キース・マークマン(前出の交渉に関する研究をおこなった研究者のひとりだ)が二人の共同研究者とおこなった研究でも、アナグラムを用いた。実験参加者たちに一〇問のアナグラムを解かせ、正答率が半分にとどまったと伝えた。そして、そのうえで実験参加者が少し後悔するように仕向けた。
こんなふうに語りかけたのだ。「目を閉じて自分の成績を思い浮かべ、もっとよい成績を挙げられた可能性と比較してみましょう。あなたの実際の成績と、あなたのありえた成績をありありと想像してください」
すると、実験参加者たちの頭の中に、「もし~~していれば……」という思考が駆け巡りはじめる。その結果、この人たちは気分が悪くなる。少なくとも、「せめてもの幸いは……」と考えるよう促された実験参加者たちよりは気持ちが沈む。
しかし、もう一度、アナグラムを解かせると、後悔の感情をいだかせた実験参加者たちは、そうでない人たちに比べて多くの正解を導き出し、粘り強く問題に取り組んだ。