虐待に遭った妹からSOSの電話がくる

母親の徹底的な虐待は、人と人との相性ではなく、暴力的な農家で育った母親の人格そのものだった。美衣さんが家を出ると、妹も同じように虐待に遭った。

東京で暮らしていると、妹からSOSの電話が頻繁にくる。いつでも東京に逃げてきていいから、そう伝えていた。

母親は今76歳。A市で、生活保護を受けながら一人暮らしをしている。

「母親は一戸建ての新築の家にすごく憧れていた。最後に付き合っていた地元の農家のジジイかなんかが、その夢をかなえてやりたいって、母親と妹にローンを組ませて建て売りを買わせようとした。妹に相談されて、ふざけるなって言って、そうしたらジジイの娘の名義でローンを組んで支払いは母親と妹でとか言いだした。人のローン支払ってどうするのって。本当に田舎のジジイとかババアは考えることが狂っている」

母親は「親になってはいけない人間」

母親とは絶縁したが、妹とは年に一度は会っている。妹は今年43歳。未婚のままA市の介護施設で働きながら一人暮らしをしている。

「妹はあの母親に育てられて、結婚できるわけがないって。虐待とか折檻は妹のほうがまだソフトだったみたいだけど、そんな育ちをした人間が結婚なんてできるはずがないと思っている」

中村淳彦『私、毒親に育てられました』(宝島社)

「私たちはひたすら暴力を受けて育っているから、たとえば彼氏とか、そういう人に当たり前に暴力を振るってしまう。それは悪いことをしたら折檻って育てられたことが原因で、『他人が悪いことをしたら暴力を振るうのは当たり前でしょ』みたいな意識があった。そういう異常な感覚を直すのって簡単じゃない」

「私も、妹も、母親から逃げてから対人関係に苦労した。とにかく母親は親になってはいけない人間だし、ああいうモンスターみたいな人間を育んだA市も狂っている土地ということ。地元も母親も、その血を受け継いでいる私自身も、妹も、本当に気持ち悪い。ずっとそう思っている」

美衣さんの話は終わった。どんな厳しい内容も、淡々と表情を変えずに語っていた。生まれたときからの暴力漬けの地獄と、狂った血を受け継いでいる自分自身を諦め尽くしているのだと思った。

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