欧米では健康診断は強制されていない
諸外国では、自分の健康が心配だという人は100パーセント自費でやってくださいという方針で、つまり実際に役立っているかどうかわからない健康診断に国のお金は使わないとしているのです。
フィンランドで会社員を対象に15年にわたっておこなわれた追跡調査では、毎年きちんと健康診断をして、異常値に関しては食生活を改善する、薬で治療をするとしたA群と、調査票の記入だけさせてまったく医学的介入をおこなわなかったB群を比較しています。
その結果、B群のほうが心臓血管系の病気、高血圧、がん、各種の死亡、自殺、いずれについても健康を管理されていたグループより数が少なかったという結果が出ています。
ストレスがないことのほうが身体にいいということでしょう。
A群のほうが少ないだろうと考えられていた心臓血管系の病気に関してもA群のほうが多かったという皮肉なデータが残っています。
30年以上、高齢者を専門に患者さんを見てきたわたし自身の経験を踏まえてみても、健康診断を受けたからといって寿命がのびることにつながるとは思えないのです。
健康診断を受けている割合が多い男性のほうが、受ける人が少なかった時代に中高年時代をすごした女性より寿命がのびていないのです。
わたしの見るところ、好きなものを食べて暮らしている人は長生きの傾向があります。
食べたいものを我慢して血圧や血糖値は標準値に戻すことができても、免疫が低下してがんになるリスクが高まってしまうということも大いにありえるのです。
マーガリン論争「身体にいい」から「悪い」へ
また、何が身体にいいかという知識も時代とともに、変容しています。
マーガリンが身体にいいと真剣に推奨されていた時代もあり、学校給食でも毎食マーガリンが出てきていました。
でも今ではマーガリンにはトランス脂肪酸という不飽和脂肪酸が含まれ、それをとりすぎると心血管系の疾患のリスクを増すことがわかり、マーガリンは忌避されるようになりました。
治療法にしても、たとえば乳がんになったらハルステッド法といって乳房を全摘し、大胸筋までとり去るという手術一辺倒でした。
このことに対して、医師の近藤誠さんが、「がんだけとり除いて放射線を当てる乳房温存療法でも、全摘した人との生存率は変わらない」という海外の有名な論文を日本の雑誌に発表したところ、外科の教授たちによる激しいバッシングを受けました。
しかし、それから15年ほどたってから、乳房温存療法はあるステージまでの乳がんの標準治療となりました。
エビデンスがあるのにもかかわらず、なぜ15年もかかってしまったのかという理由がこれまた恐ろしい。
外科医の多くが乳房温存療法に内心では賛同しつつも、偉い先生たちが引退するまで本音をいえずにいたからだとされています。
少なくとも公然と乳房温存療法をおこなうと、大学内では出世できなかったのです。