正月に餅を喉に詰まらせて死ぬ事故が頻発する理由
トレードオフのもう1つの例は、人間ののどの構造が変化して大声で喋れるようになったかわりに、人間はモチがのどにつっかえて死ぬようになったことだ。人間は咽頭の位置が低くて、鼻からのどを通り気管に行く空気の通り道と口からのどを通って食道に行く食物の通り道が直交しているので、この交差点をふさいでしまうと息ができなくなる。
咽頭の位置がチンパンジーのように高いと気道と食物の通り道は立体交差をするので、たとえモチがのどにつかえても、気道は確保されて窒息はしないのだ。
しかし、咽頭の位置が低いのもいいことがあって、そのおかげで人間は声帯を震わせて口腔や鼻腔で共鳴させて、大きな声を出せるようになった。モチがのどにつかえるのと大声を出せるのはトレードオフで、この構造変化は人間の社会生活を大きく変えたのだ。
どんな形質でも生きるために何らかの役に立つというのは偏見で、役に立たない、あるいは非適応的な形質を持っているのにもかかわらず、生き延びることはできるのだ。