毛髪を使った世界初の「健康診断」が、日本のコンビニで始まるかもしれない。ヤフーやアデランス、理化学研究所などが毛髪診断のビジネスを進めるコンソーシアムを設立した。5分、数千円程度の診断で、がんや生活習慣病の予兆がわかるという。取り組みの詳細をリポートしよう――。

毛髪を使った「非侵襲型」の診断システム

毛髪を使った世界初の「健康診断」が、日本のコンビニで始まるかもしれない。

昨年12月、ヤフーやアデランス、京セラ、島津製作所、三井物産、理化学研究所など18法人が「毛髪診断コンソーシアム」の設立を発表した。代表法人は理研発のベンチャー「オーガンテクノロジーズ」。目的は、毛髪を使った「非侵襲型」の診断システムを世界に先駆けて確立することだ。

なぜ毛髪で健康状態がわかるのだろうか。毛髪とは、毛母細胞が集まった、いわば細胞標本。細胞が死ぬと、その時点で細胞内にある物質は固定され、それ以降は代謝が起こらない。そのため毛髪には、毛母細胞が生きていた時点での情報が、そのまま保存される。

毛髪は1カ月に約1cm伸びる。だから根本から12cm先の毛髪には、1年前の健康情報が残されている。そのため毛髪は、長期間の過去の情報を持つ生体で数少ない記憶媒体なのだ。

「毛髪」で健康状態がわかる仕組み(画像提供=毛髪診断コンソーシアム)

法医学の分野では、すでに毛髪に記録された情報を利用している。毛髪に含まれる薬物成分や麻薬代謝物などを高感度に検出する方法が確立されており、鑑定結果として裁判の証拠として採用されているのだ。こうした毛髪の組成分析をより高感度で行うことができれば、さまざまな健康情報も得られる。

これまで健康診断では、血液や生体組織の採取など痛みを伴う「侵襲型」と、尿検査や血圧などの「非侵襲型」が利用されてきた。

ただこれらの検査では、一日のうちでも飲食や運動などに影響を受けるため、時間によって変化する日内変動が課題とされる。採血のタイミングによっては健康状態を正確に反映しているとは限らないのだ。また自分では健康と考えていても疾病は徐々に進行しており、検査数値が規準値を超えたときに異常、すなわち疾病と診断される。異常値を示さない限り、疾病とはみなされない。

これに対して、毛髪は過去情報が記録された細胞標本であるため、身体の変化を時系列で追いかけることができる。疾病と診断されるまでの身体の異変を組成分析によって早期発見できる可能性がある。毛髪診断は、最近、医学会で注目されている「先制医療」を実現する重要なツールともなりうるのだ。