「毛髪から健康状態を知り、疾病を早期発見する」

毛髪から得られる健康データは、実に多種多様である。毛幹の組成分析からは、ミネラル、タンパク質、脂質、ホルモン、色素、薬物などの状態がわかる。遺伝子関連では、ゲノムとmRNAに関するデータ入手の可能性もある。こうした成分情報に加えて、毛髪の形態や色なども健康状態やエイジング、また髪のダメージなど身近なヘルスケア情報を知る指標となる。「毛髪診断コンソーシアム」は、以下の表に示す項目の分析を計画している。

「毛髪診断」の主な分析項目と内容例(画像提供=毛髪診断コンソーシアム)

これまでの研究から毛髪の組成分析によりいくつかの疾病との関連が報告されている。特定のがんではヨウ素の蓄積量が毛髪で増える。肝がんでは、毛髪に含まれるカルシウムや銅、鉄などの蓄積量が増える。乳がんでは、乳がんを発症する前に血中カルシウム濃度が下がり、毛髪にカルシウムが異常蓄積する。そのため、乳がんでは「ステージ0」での早期発見も期待されている。生活習慣病関連では、糖尿病患者において特定のアミノ酸が毛髪中に多くなることがわかっている。

理化学研究所 多細胞システム形成研究センターの辻孝氏は、「様々な疾患の早期発見に応用できる可能性がある」と話す。

「毛髪データを大量に集めていけば、がんや生活習慣病だけでなく、さらに多くの疾患診断の可能性があります。その鍵となるのが毛髪の組成と疾患を診断するためのマーカーの発見です。日本人の死因でがんに次ぐ心不全での心筋壊死の早期発見や、認知症の要因とされるアミロイドβタンパク質に関する代謝物、精神性疾患などの特異的なマーカーなども特定できれば、将来、様々な疾患の早期診断に応用することが期待できます。そのためにも毛髪から得られる情報を取得するシステムや組成分析の高感度化、マーカー探索が課題です」