さすまた、警棒、刃物、スタンガンも使っていいが…
それでは、私人逮捕する際はどんな武器を使ってもいいのでしょうか。11月下旬に東京・上野の貴金属店で発生した強盗未遂事件では、従業員がさすまたで応戦する様子が話題になりました。
判例の基準に従い、犯罪の性質や犯人の状況、逮捕までの経緯、逮捕時の状況から判断すれば、場合によっては武器の使用も可能といえます。そのため、さすまたのほか、防犯グッズの警棒やスタンガンなども、場合によっては社会通念上相当として許されるといえます。
また、逮捕するのが、私人という捜査の専門家ではないこと、現行犯という一般的に緊急性が高い場合であることに鑑みると、比較的強度の実力行使が認められやすいとも考えられます。正当防衛の論点で「武器対等の原則」というものがありますが、被逮捕者が拳銃や日本刀などを所持していれば、これに対抗するため、刃物を含めて武器の使用も認められうるといえます。
ただし、被逮捕者が丸腰であり、逮捕者が素手で逮捕でき得る状況であったのに、不相応な凶器を使用した場合には、必要性、相当性が認められない可能性があります。また体格、男女の別、年齢差、その場の状況などから逮捕者よりも被逮捕者が明らかに攻撃力が劣っているのであれば同様に凶器の使用は認められませんが、これは事案ごとに異なると言わざるを得ません。
格闘技経験者が起訴された「勘違い騎士道事件」
別の観点で、私人による逮捕の際に相手を怪我させてしまった場合、その容体の重さによって逮捕者が逆に有罪になってしまう場合はあるのでしょうか。
あわび密漁事件では、逮捕時に全治約1週間の怪我を犯人に負わせていますが、適法性判断において重視されるのは、当該逮捕「行為」となります。もちろん「結果」も行為の適法性を判断するに際し、斟酌はされますが、あくまで逮捕行為が相当であったのか、といった点が重視されるのです。
空手の有段者、ボクシング経験者など格闘技をしている人間が現行犯に危害を加えた場合についても説明します。私人による現行犯逮捕の事案ではありませんが、最高裁判所が誤想過剰防衛について刑法36条2項による刑の減刑を認めた事例で「勘違い騎士道事件」というものがあります。
これは、酩酊した女性を助けようとした空手三段の男性が、女性を介抱していた男性が殴りかかってくるものと誤信し、とっさに回し蹴りをして同人を転倒させ、頭蓋骨骨折等の傷害を負わせ、その傷害による脳硬膜外出血および脳挫滅により死亡させて傷害致死罪に問われた事件です。