誤信したとはいえ、体格差や力の差が考慮され有罪に
最高裁判所(昭和62年3月26日決定)は、「本件回し蹴り行為は、被告人が誤信したA(男性)による急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を逸脱していることが明らかである」として、傷害致死罪の成立を認めた上で、刑法36条2項による減刑を認めました。
当該判例の解説によると、攻撃者のとった攻撃態度の状況(ファイティングポーズのような態度をとった)、体格差、被告人が空手道だけでなく、居合道、柔道、杖道などにも精通していたこと、回し蹴りの方法(足の甲を使っていたとしても、転倒の危険が無いとはいえない)などが考慮されているようです(岩瀬徹『最高裁判所判例解説 刑事篇〈昭和62年度〉』100頁)。
私人による現行犯逮捕の有形力行使についても、当該誤想過剰防衛の判例が参考になるかもしれません。しかし、私人逮捕の相当性の要件をめぐっては、犯罪の性質、犯人の状況、逮捕までの経緯、逮捕時の状況等が従来から指摘されてはきましたが、事柄の性質上、あまり具体的な類型化には親しまないとの指摘もあり、裁判例の集積が望まれているところです。(香城敏磨・最判解説昭和50年度67頁)
転売ヤーの私人逮捕はほぼ不可能
話を私人逮捕系ユーチューバーに戻すと、彼らの行為は上記の判例とはまったく異なる状況であることがわかります。その代表的な例がチケットの不正転売です。
例えばAさんがチケットを、Bさんがお金を渡しているシーンを目撃したとします。私人逮捕系ユーチューバーは「チケットの不正転売だ!」と騒ぎ立てるかもしれませんが、もしかしたらAさんとBさんは友達で行けなくなったチケットを譲っているのかもしれませんし、他人だとしても定価で販売しているのかもしれません。
仮に、本当に転売ヤーによる不正転売だったとしても、それはあくまで結果であって、なぜ今この場で、不正販売だと知り得ることができたのかは証明できません。違法になりえる転売かどうかを第三者が判断することは極めて難しく、私人逮捕(現行犯逮捕)できる理由にはならないのです。
また、ここ最近だとユーチューバー本人が不正転売を申し込み、高い金額での取引を確定させた後に取引現場で「あなた不正転売やってたでしょ?」と詰め寄るケースも散見されます。
たしかにこのケースだと現行犯ではあるため、私人逮捕が成立するかもしれませんが、今野容疑者のように、教唆罪(※他人をそそのかして、その人に犯罪を実行する決意を生じさせること)に問われる可能性があります。