「学歴があれば大丈夫」と勘違いする当事者
――取材対象者のなかには、有名大学出身者もいるのでしょうか。
むしろ、有名大学で博士号を取得した方がほとんどです。これだけ有名な大学の経歴が並んでいるにもかかわらず、どうして難民化してしまうのか、理由を考えたのですが……。
私の知り合いの中で、ネームバリューがあまりない大学の学生は自信がないので、30歳位までに就職の目途が立たないと、妥協して、とにかく就職先を探していました。一方で、日本でも一流と言われる大学の博士号を取得した人はプライドが高い分、選択肢が少なく、どこかで選ばれるのを待っているような傾向を感じました。
その結果、仕事をしなければならない状況に追い込まれても既に手遅れとなり、正社員になれないことがほとんどです。就職の時期を逃してしまうと、結果的に高卒や学士卒の人と同じフィールドで戦うことになります。そうなると、「こんなにいいカードを持っているのに」と学位を持っていることにかえって恥ずかしさを感じる人もいます。
そうした恥ずかしさが就職をますます遠ざけることもあるでしょうし、学位を取るための生活が維持できなかったり、プライドを刺激されることによってトラブルを起こしてしまったりすることもあります。これが有名大学の博士号取得者に高学歴難民が多い理由の一つだと考えています。
昼は研究、夜は身体を売る高学歴女性たち
――本書に登場する高学歴難民のエピソードには、売春や犯罪など本人にとっては語りにくい内容も多く含まれています。取材対象者からどのようにして話を聞き出しているのでしょうか。
学生時代の知人に関しては、なにげない会話のなかで告白してくれる人が多かったですね。
私は大学院で性の歴史や売春史を研究していた時期があったのですが、20代のときに『コールガール 私は大学教師(プロフェッサー)、そして売春婦』(筑摩書房、2006年)を読んで衝撃を受けました。筆者のジャネット・エンジェル氏は、イェール大学で修士、ボストン大学で博士号を取得した人類学者です。昼間は教壇に立ちながら、夜は娼婦として生活していたという自身の体験を、この本でつづっています。
身近な人に「こんな本を読んだんだけど、日本でも同じようなことが起きているのかな」と何気なく話したときに「実は私も……」と打ち明けてくれる人がいたんです。当時は生活が困窮している真っ只中だったこともあって、詳しく語ってくれることはなかったのですが、彼女たちの生活が落ち着いた頃に、改めて取材を申し込みました。
犯罪については加害者家族支援で関わった家族や、その周辺にいる人たちの相談に乗っているなかで伺った話が多いです。