学歴ではなく、意志と行動力が道を開いた

――波乱万丈ではありますが、本書で紹介されている高学歴難民のエピソードのなかで、希望通りの社会的地位を得たほぼ唯一の成功事例です。彼女は、ほかの高学歴難民となにが違ったのでしょうか。

ほかの高学歴難民と違って、人脈を持っていて、自分の力で道を切り開いていますよね。英語教室も自分で考えて始めたものですし、元夫からの嫌がらせを受けて計画が頓挫しかけても、離婚した後に自分で不動産を契約して、自力で英語教室を開いています。

ショップ店員を経験していたこともあって愛想も良いですし、研究者であることに固執せず「多くの人に英語を話せるようになってほしい」という強い思いで立ち上げた教室なので、人気が集まるのもわかります。

彼女が成功したのは高学歴だったからではなくて、確固たる意志と行動力があったことに理由があるのではないかと考えています。

どんなに立派な学位があっても受け身では成功できない

――高学歴であるだけでは成功できない、ということですね。

阿部恭子『高学歴難民』(講談社現代新書)
阿部恭子『高学歴難民』(講談社現代新書)

もう学歴だけで勝負できる時代ではないですよね。高い学位や、学位をいくつも持っているというだけではキャラクターとしても弱いですし、その後、社会での実績が伴ってこそ学歴が活きるわけです。逆に学歴だけで、その後の経歴が真っ白であれば、社会ではむしろ烙印らくいんを押されてしまう。学歴がない人より、「学歴しかない」人の方が疎まれ、社会に居場所が見つからない現実もあるのです。

難関大学に合格しているということは受験戦争を勝ち抜いてきたわけですから、優秀であることは事実です。取材した高学歴難民の中には、「エリート」と確信できた学部時代に戻りたいと嘆いている人たちも少なくありませんでした。

自分を過大に評価することなく、プライドを捨てて、自分の経歴を活かすために積極的に社会と関わる。助けを求めることも社会と関わる第一歩です。シンプルでありだからこそ大変なことですが、これこそが高学歴難民が自身の困難を乗り越えるためにすべきことなのではないかと、私は思います。(第2回に続く)

(構成=佐々木ののか)
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