現場に出て初めて現実感、連帯感が生まれる

これは日本だけの問題ではありません。対抗文化が影を潜め、大勢順応型といいますか、享楽型の若者が増えているのは、全世界的な傾向です。国外にはもちろん、国内にも連帯を感じる対象を失っているように見受けられます。人間としてのソリダリティーの感覚を持った層を広げていかないと、それが政府の姿勢にも必ず反映します。

途上国に対しての主体的な協力をしなくなります。例えば、ザイールという国がなくなってしまおうが、そこに大きな混乱が生じていようが、うちとは関係ありません、ということになっていくのです。

実は私も、アフリカとかかわりを持ったのは高等弁務官になってからです。毎年アフリカ統一機構(OAU)の年次総会に出席するのをはじめ、年に3回はアフリカの各国を回ります。UNHCRの事業の約40パーセントがアフリカ関連であるという事情もあります。最近感じるのは、この仕事に就かなければ、ツチ族とフツ族が何かということさえ知らず、関心もないままに生きていたかもしれない、ということです。

世界のさまざまなできごとに身をさらさなければ、現実感、ひいては連帯感を持つことは難しい。現場に出て初めて問題点がくっきりと見えてきた、という経験を私は何度もしているのです。

なぜ外国語を勉強しなければいけないのか

私は、国の内外を問わず、自分で歩いてみることを、若い世代にすすめます。私自身は米国留学中に国際関係論を勉強し、帰国後、日本の政治外交史を専攻しました。

緒方貞子『私の仕事 国連難民高等弁務官の10年と平和の構築』(朝日文庫)

日本が国際社会で歩んだ道をしっかり学んでおきたいと思ったからです。留学経験が逆に日本への関心を呼び起こしたのです。このころに、私は自分の中での国の内と外を隔てる壁を低くすることができたと感じています。

もうひとつ、若い世代に申し上げたいことは、国際社会で言葉はとても大切だということです。しっかりした言語能力がなければ、実のある活動はできません。自分の意思を伝えたり、用を足す手段としてだけに考えず、相手の文化を学ぶ材料だととらえるべきです。さまざまな言い回しに、その言語を生んだ文化がそのまま表れているのです。

言語とは文化であることを自覚して学び、使うことが必要です。言語を通して開ける新しい世界、ひとつの文化、別の価値体系との遭遇が、遠い国の人々に対して連帯感を持つことにつながります。

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