仕事から解放されたタバコ休憩は賃金は本来支払われない

③ノーワークノーペイの原則

3つ目は、タバコ休憩の時間の給与をカットできるのかという論点です。

労働基準法の原則は、使用者は賃金を働いた時間に対して支払います。つまり働いていない時間の賃金を支払う義務はありません。

例えば遅刻や早退があった場合、その時間は働いていないため給与控除しても問題ありません。

タバコ休憩の時間も働いていないのでその時間分の給与を控除することは可能です。

ただし、給与控除するためには、喫煙中の時間が「労働する義務から解放されることが保障されている時間」である必要があります。喫煙中でも指示があればいつでも仕事をしなければいけない状況であれば労働時間になるということです。タバコ休憩を休憩時間として扱うためには、会社の指揮命令から完全に解放された時間であることが必要になります。

写真=iStock.com/mariusFM77
※写真はイメージです

1日20~40本のタバコを吸っても「労働時間」

タバコ休憩が「休憩時間」であるか否かは、複数の判例があります。

●タバコ休憩が「休憩時間」と認められなかったケース

タバコ休憩が「休憩時間」と認められなかったケースが、大阪の居酒屋チェーン店の男性店長が、長時間労働で心筋梗塞を発症し療養・障害補償を求めた裁判です(大阪高判平21・8・25)。

男性の月の残業時間は100時間に達していましたが、業務時間中に1日20~40本のタバコを吸っていたことから、喫煙による休憩時間が1日1時間程度あったとされ、実際の残業時間は100時間を大きく下回ると判断され、労災認定されませんでした。

裁判では、タバコ休憩の時間を休憩時間と認めるか否かが大きな争点となりました。

最終的にタバコ休憩の時間が労働時間と判断されたために長時間労働が認められ、労災認定されました。

この判例でタバコ休憩の時間=労働時間となった理由は以下の2点です。

・何かあればすぐに対応しなければならない状況で完全に業務から離れているとは言えない
・たばこ休憩は1回5分程度であり、まとめて与えられていたとは言えない

実際に仕事をしていなくても「何かあればすぐに対応しなければならない状況」は、労働する義務から解放されることが保障されていないため、その時間は労働時間になるということです。

ただ、この判例だけを見てタバコ休憩=労働時間と考えるのは早計です。

労働する義務から解放されることが保障されている状態かどうかは、タバコ休憩のために離席している時間や喫煙所との距離的関係も重要になってくるからです。