2023年、歌舞伎町の路上売春は異常なほど急増している
東京全域を管轄する警視庁にとって、路上売春の取り締まりのメインは新宿だ。池袋にも路上に立つ女性が集まる場所はあるが、規模は小さい。長く捜査に当たる保安課の幹部は、歌舞伎町の変化や現状をよく知っていて、私は検挙実績や捜査の背景を尋ねるため、何度か取材を申し込んだ。
2度目の取材をした2023年2月、その幹部は厳しい表情でこう語った。「ここ数カ月でしょうか、女性が急に増えています。女性だけでなく、人数自体が増えているのですが、ちょっと……どころではないですね。異常です」。
それまで1年以上にわたって足を運んできた私の目にも、明らかに「異常」だった。2022年11月のある週末、午後9時ごろにその一帯に行くと、すでに30人以上の女性が立っていた。それまでは多いときでも、せいぜい十数人だった。その時間に男性客と連れだってホテルに入っていた女性もいたとすれば、この日、路上売春をしていた女性の数はもっと多いだろう。
焦った警察は売春を摘発しているが、抑止効果は限定的
12月に入って、警察による大規模な摘発が何日間かにわたり繰り返された。「売春女性と買う側の男性が急に増え、これはまずいという危機感があった」と捜査幹部は明かす。1カ月で10人の女性が逮捕され、路上に立つ女性たちは警戒心から一時的に姿を消した。この頃、私は公園の周りで顔見知りの女の子に会うと、「明日も一斉検挙するってうわさだよ」「私も、しばらく夜は避ける」と言われるようになった。
ただ、年の瀬が近づくと、路上に立つ女の子たちの数は元に戻っていた。先の捜査幹部は、「何十人といても、実際に取り締まれるのはごく一部。抑止的な効果は限定的だった」と話す。
年が明けても、女性たちの数は増え続けた。春先、再び大規模な摘発があり、一時的にその数は減ったものの、それでも40人近い女性の姿を目にすることは珍しくなかった。6月、梅雨入り前の台風が近づいて東海道新幹線が止まり、都心でも激しい風雨に見舞われた日ですら、20人はいた。夏になり、週末ともなると、60人に達することさえあった。この日、わずかでも立った女性を含めれば、100人を超えたかもしれない。