※本稿は、春増翔太『ルポ 歌舞伎町の路上売春』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。記事に登場するカタカナ表記の名前は仮名です。
歌舞伎町の路上で体を売って暮らしていた25歳の女性
ユズに出会ったのは2021年12月だった。彼女は25歳で、歌舞伎町に来て2年がたっていた。東京では昼職に就いたことがなく、体を売って暮らしていた。無邪気で、よく冗談を言い、よく笑った。
何度か顔を合わせるうち、私にも気軽に声をかけてくるようになった。もともと警戒心をあまり持たないタイプで、私が売春をとがめたり、説教したりする人ではないと分かったのだろう、会うと下ネタを飛ばし、嫌な客の愚痴をよくこぼした。
「今日の客、まじであそこがでかくて超痛かったんだけど」
「ホテル入った後でいきなり『ナマでやらせて』って、すごいしつこくて」
「よく見かけるおっさんがいて、知らない? さっきも話しかけられて、適当に返してたら、急におっぱい触ろうとしてきて最悪なんだけど」
ユズの口癖の一つは「最悪」だ。路上の女性はぞんざいな扱いを受けることも多く、確かに悪態の一つもつきたくなるだろうと思う。それにしても、彼女に限らず女の子たちの仕事上の愚痴は、かなり生々しい。本気で怒っていることもあるし、冗談交じりのときもあるが、聞いていてどういう顔をすればいいのか分からないことがよくあった。
報酬は1回1万円、お金がないときは半額でも応じる
ユズが売春相手に提示する金額は1万円だ。この街で路上売春をする女の子たちの相場からすると、かなり安い。どのホテルにするかは客任せで、自分では選ばない。馴染みの相手だと、1万円を切る値段で応じることもあるという。
「本当にお金がなくてやばかったときに5000円で行ったこともある。知ってる人だったし、手でするだけだったら、それでも別にいいやって。早く終わるなら正直1(万円)なくてもいい。しつこく値切ってくるのは変なやつが多いから、さすがに初めての人とはそんなことはしないけど」
相手次第で、逆に料金を上乗せすることもあった。「さっきの客にナマでどうかって聞かれて、「じゃあ2(万円)で」って言ったら2万くれた」と、いつもと同じ口調で話してくれたこともある。「ラッキー」という響きすらあった。