財務省がつくった「プライマリー・バランス信仰」

【石橋】財務省は、第四条を守って赤字国債の発行も止めたい。均衡財政に戻すために、赤字国債発行による借金も早く返したくて躍起になっているわけです。

【田村】曲者なのが、本書の第一章でも触れた、プライマリー・バランスです。

社会保障や公共事業をはじめとする行政サービスを提供するための経費(政策的経費)が、税収などで賄えているかどうかを示す指標がプライマリー・バランスです。

プライマリー・バランスが赤字だと均衡財政になっていないので黒字にしなければならない、というのが財務省の理屈です。赤字国債の発行を前提にしてはいけない、というわけです。

1996年に成立した橋本龍太郎内閣のとき、財務(大蔵)省が必死に裏工作をします。

御用学者に海外視察をさせて、大事なのはプライマリー・バランスだという報告書を書かせる。

それでもって、日本でもプライマリー・バランス重視の政策をやらなければいけないと、橋本さんを必死で説得するわけです。

プライマリー・バランスを黒字にするためには、歳入を増やさなければいけません。

手っ取り早いのは消費税の増税だというので、1997年4月に消費税率を3パーセントから5パーセントに引き上げさせます。

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橋本元首相は緊縮財政策を後悔していた

【石橋】消費税増税は、橋本さんの前の村山富市内閣のときに内定しますが、橋本さんがあっさりと受け入れてしまった理由がよくわかりました。

【田村】さらに、橋本さんは緊縮財政策をとります。

1997年11月に「財政構造改革法」を成立させて、赤字国債発行を毎年度削減するなど財政再建路線をとります。加えて、プライマリー・バランスを均衡させるために、歳出を抑えた緊縮型の予算も組みます。

これによって、日本経済の景気減速に拍車をかけてしまう。

緊縮財政で世の中におカネが回らなくなって、景気が落ち込んでいく。深刻な就職氷河期と、デフレの蔓延を招くことになります。

その影響で、橋本さんの知り合いだった中小企業の経営者が自殺しています。

晩年になって、自分のやった政策を、橋本さんはずいぶん後悔していたようです。

そういう政策を橋本さんにけしかけたのは財務(大蔵)省です。