保守派と改革派の対立で会社が真っ二つに

当時のキグチテクニクスの仕事の主流は、国内の金属会社の研磨や検査が中心。そのままでも十分、会社は安泰だった。

「お得意様がヘソを曲げたらどうするのだ」「そんな山のものとも海のものとも分からないもの、道楽に付き合えない」と古参社員はこの改革案に大反発。順一郎さんは、改革派の急先鋒として針のむしろの毎日だったという。「すべてを否定される毎日に、眠れない夜が続きました」と振り返る。

「『創造とチャレンジの両方を忘れてはならない』。それが弊社の社風。世界で一番厳しい業界の認定を受ければその他の業界も網羅できる。厳しい国際基準の航空機産業の国際認証を手にいれることで他産業にも拡大の足がかりができるはずだ。やるなら一番を目指す」

順一郎さんらの進める改革の勢いに、反対派の古参社員は退職。しかしベテランの何人かは「時代を変えないと先細りだ」と賛同してくれ、応援も増えた。それが順一郎さんのパワーの源となった。明確な未来へのビジョンと計画実行が保守派と改革派の均衡を崩していった。

「われわれは製造業ではなくサービス業」

そして遂に国内メーカーの機器も総動員し、2010年にNadcap認証を取得。2014年にGE、15年にロールスロイス、18年にプラットアンドホイットニーと、世界3大エンジンメーカーの企業認証も取得した。

2006年には5号機までしかなかった疲労試験機器はどんどん増えていった。国際基準機の米国インストロン社の引張試験の機器も導入し、金属試験に弾みと自信が加わっていく。

撮影=プレジデントオンライン編集部
インストロン社の引張試験機器

「今までの製造業の考えや気持ちではダメ。われわれはサービス業。お客様と向き合い満足を提供するのだ」と副社長になった順一郎さんは檄を飛ばし続けた。

現在では電力不足や冷却水不足といったトラブルも乗り越え、顧客のニーズに応えて試験材料の切り出しから熱処理、加工、試験評価までの全工程を1社で提供している。2010年には14億円ほどだった売上高は、2022年には32億円に伸びた。

「試験できないものはない」と笑う順一郎さんの柔和な表情は、数々の修羅場の経験と嵐を乗り越えた自信の表れだろう。

2019年にはオハイオ州ダブリンに米国キグチテクニクスを設立。航空機分野の拡充と世界から信頼を獲得するために、順一郎さんの弟・木口貴弘さん(現・キグチテクニクス社長)が現地をリサーチし、交渉を重ね設立した。米国の試験需要、動向調査、試験業務も開始しているという。ここでも「世界挑戦」という壮大な夢を実現している。