サバンナの動物に生存戦略のヒントがある
このように、その会社でしか通用しない知識やスキルは、ほかの会社では応用しにくい。まったくの同業種なら多少は活用できるが、やはり限界がある。
これは会社という枠組みにかぎった話ではない。たとえば日本における大学入試の基準となる偏差値という概念はアメリカの大学にはない。となると日本でしか通用しない偏差値がいくら高くても、アメリカの大学には入学できないこともある。
ほかの何かと比較すると話が単純化されて理解が深まり、本質が明らかになることがある。ここでは会社員と生成AIの関係を、生物の世界と比較してご紹介しよう。
サバンナの草食動物シマウマは草原の草の先端を食べ、ヌーはその下の草の茎や葉を食べ、ガゼルは地面に近い背丈の低い部分を食べる。
キリンは、高所の葉を食べる。このように、それぞれの動物が食べ物で棲み分けている。どんな生物でも棲み分けることで、それぞれがナンバーワンでありオンリーワンになれる「居場所」があるのだ。
定型業務という「居場所」をめぐって争うことに
ここで紹介したのは、生物の激しい競争の結果として起きた食での棲み分けだ。もしシマウマとヌーとガゼル、そしてキリンが同じ草の同じ部分を食べていたら、弱い種は生き残れない。共存できなければ敗者は去りゆくのみ。このことを生態学では競争排除則(ガウゼの法則)と呼んでいる。
では生成AIと、その会社でしか通用しない知識やスキルをもつ社員との棲み分けが、サバンナの草食動物のようにできるかを考えてみよう。それぞれが「居場所」を確保できるのだろうか。
ガウゼの法則では、それはできないという。
「生成AIは生物ではないからガウゼの法則は成立しない」と考えた人もいるだろう。サバンナではどの草木を食べるかで棲み分け、会社ではどの仕事を誰が担うかで棲み分けをしている。ルーチンワーク化された定型業務という「居場所」は、生成AIと争うことになるのは間違いない。
会社というサバンナには、次の2つの種が存在することになる。
B)その会社でしか通用しない知識やスキルを獲得した生成AI
ガウゼの法則によると、AとBのどちらかが排除されることになる。生成AIに仕事を奪われることが不安な人は、Aになることを恐れるだろう。