「たかが3兆円と言ったら怒られるかも」

2016年7月18日、ソフトバンクグループ(SBG)は、英国の半導体設計会社のARM(アーム)の買収を発表した。買収総額は約240億ポンド、当時の為替レートで約3兆3000億円だった。当時、孫正義会長は、「たかが3兆円だと言ったら怒られるかもしれません」と発言した。いい買い物ができたという趣旨だったろう。

生成AIシンポジウムで発言するソフトバンクグループの孫正義会長兼社長=2023年7月4日、東京都文京区の東京大安田講堂
写真=時事通信フォト
生成AIシンポジウムで発言するソフトバンクグループの孫正義会長兼社長=2023年7月4日、東京都文京区の東京大安田講堂

それから約7年、紆余うよ曲折あったが9月14日にアームは米ナスダック市場に上場した。14日終値ベースの時価総額は652億ドル(1ドル=147円で約9兆6000億円)だった。14日の終値基準ではあるが、アーム株の価値は買収時の約3倍に増えたことになる。

“チャットGPT”など人工知能(AI)が世界を牽引するという社会の変化を、孫会長はかなり早い段階から見抜きアームの買収に踏み切った。今後、AIの利用に伴う利得を増やすため、SBGはアーム上場によりビジョンファンドなどの運営体制を強化する。

今回のアーム上場は、孫会長の投資家としての目の確かさを改めて確認する機会になった。その能力がしっかりしている間、SBGの“ビジョンファンド”が相応の成果を実現することが期待できそうだ。

「大きく出た」と減損リスクが懸念されていたが…

2016年7月にSBGはアームを買収した。買収に関する記者会見の場で孫会長は次のような見解を示した。まず、世界全体で“インターネット・オブ・スィングス(IoT)”は加速度的に普及する。特に、人工知能の利用に伴ってより高性能の半導体の需要は増える。それは、人類史上で最も大きな変革といっても過言ではない。

アームは、チップの設計技術で世界トップの企業である。デジタル化の加速に伴い、アームが半導体メーカーなどに供給するチップの設計図は急速に高度化し、増えるだろう。世界は、人工知能が社会や経済の変革、成長を牽引するという大きな変化の“入口”に立っている。そのタイミングでアームを「たかが3兆円」で買収できることは、孫氏から見ればそれなりの勝算は十分に見込めたのだろう。

会長の見解に対して多くの株式アナリストなどは、「SBGは大きく出たものだ」と慎重な見方を示した。成長の期待よりも、買収に伴う減損リスクの高まりなどを懸念する向きも多かった。