「がん保険」は必要ない
【後田】がんが、それほど遺伝しないことは、保険会社も認識しています。SBI損保のサイトでは「大部分のがんは親から子へと遺伝するものではなく、加齢やその他の要因によって遺伝子が傷つくことでおこるものです」と説明されています。さらに、先天的な遺伝子変異が原因となるのは5%以下という記述もあるんです。
【有司】それで「がん保険」ってどうなんでしょう、入っておいたほうがいいですか?
【美香】担当の人に薦められて、そういえば私たち、がん保険は入っていないよね、という話をしていたんです……。
【後田】確かに気になりますよね。私も、がん保険に入るべきかが気になって、ある保険会社で、がん保険と医療保険の商品設計に関わっている方に尋ねたことがあるんです。それで、その方の回答が結論だと思っています。
【有司】どういう回答だったんですか?
【後田】「病名別の保険商品は意味不明」と。
【美香】どういうことでしょうか?
【後田】日本の場合、国の医療保険制度が充実していて、誰もが、既に「最強の終身医療保険」に加入しているようなものです。有司さんならば、勤務先で入っている「健康保険」が、国の医療保険制度に該当します。
私のようなフリーランスなら、「国民健康保険」です。そして、「高額療養費制度」のおかげで、どんな病気でも、医療費の自己負担には上限がある。その上限額は、だいたいのご家庭が自己資金で対応できるような設定です。それなのに、なぜ、民間の「医療保険」が必要なのか。それすら謎なのに、がんに特化した「がん保険」が必要な理由なんて、思いつかない。
そもそも「病名別の保険」は意味不明
【後田】「がん保険」のほかにも、がん・急性心筋梗塞・脳卒中に備える「三大疾病保険」や、女性特有の疾病に備える特約など、病名別に作られた保険商品はいろいろあるが、これらが、なぜ存在するのか、正直、理解できない、ということでした。
【有司】うーん……。
【後田】これも繰り返しになりますが、上限がある医療費の自己負担は自分で払うほうがいい。手数料などが高くつく保険は使わないほうがいい。がんであっても、脳卒中などであっても、この原則は変わらない、ということです。それで「では、なぜ、保険会社はがん保険を売るのでしょう?」とお尋ねしたら「売れるからですよ」と(笑)。
【有司】仕事だからと割り切っている、そんな感じですか?
【後田】まあ、そうですね。保険会社の人でも個人的な体験などによって、温度差はあるかと思います。家族ががんにかかったり、自分ががんにかかったりすれば、受け止め方が多少は変わるようです。変な話ですが、保障が過大だと感じたとおっしゃる保険会社の人もいます。「がんにかかったけど、健康保険のおかげでお金は思ったほどかからなかった。それどころか、自社のがん保険に入っていたから、大幅な黒字になった。正直、おかしい」と話す人もいるんですよ。それも1人ではないです。