60万円程度の給付権を160万円で買うようなもの

【有司】がん保険で儲かってしまった、というわけですね?

【後田】ええ。ともあれ、私たちが学びたいのは、こういう人たちが、がんの体験談などを聞いて湧いてくる感情はいったん脇に置いて、「がん保険」を冷静に見ていることです。がん保険を、純粋に「お金を調達する方法」として見たとき、国の制度があることも考えれば、割に合わない調達方法だと判断しているのです。私も、がん保険の保険料は高過ぎるのではないかと感じています。

【美香】そうなのですか?

【後田】試算するとわかります。がんと診断されたときに、給付金(診断給付金)が100万円支払われるだけという、シンプルな商品で考えてみましょう。試算方法は簡単で、一生涯にがんにかかる確率から、給付金の見込み額(期待値)を出します。

診断時に100万円が支払われるプランだと……、男性:100万円×65.5%(生涯罹患りかん率)=65万5000円女性:100万円×51.2%(生涯罹患率)=51万2000円です。これに対して、いくらの保険料を支払うのでしょうか? 加入時の年齢にもよりますが、ある保険会社の商品では、総額で160万~169万円に達しています。50万~65万円ほどの給付権を160万円超で買うような仕組みです。マネー誌などでも評価が高いがん保険ですけどね。

【有司】それはずいぶんですね。

「著名人の体験談」の影響力は大きい

【後田】保険会社の人にも言い分はあるんです。例えば、がんの診断方法が進化し、今は発見できないがんも容易に見つかるようになったら、どうでしょうか。がんと診断される人が急増して、給付金の支払いが急増する。そういう事態も想像できますよね?

【有司】確かに、そんなこともあるかもしれないですね。

【後田】ですから、いろんなリスクを反映した料金設定がなされるのは構わないと思います。ただ、あらかじめ給付を高めに見込むことで余ったお金があれば、一定の割合で返金するとか、いろんなやり方があると思うんです。何より、保険会社の情報発信に問題を感じます。特に、がん保険では、広告などで心が揺さぶられる体験談などが流布されますよね。

【有司】テレビCMで著名人が闘病体験を語っている、といったことでしょうか。

【後田】はい。その一方で、保険契約にかかる費用や会社側の取り分などがさっぱりわからないのは、困ったものだと感じます。

虫眼鏡で見ている家族が手をつなぐアイコン
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