むしろ稼ぎ頭になっている
2010年代には世帯視聴率を獲る上で厄介者扱いをされていたドラマは、今やTVerの月間再生数だけで数億回まで上昇するなど、一躍今後のテレビ業界を救う最重要コンテンツに浮上。有料会員獲得や海外配信などの収入も含め、ここ2年で各局が「配信でも稼ぐ」ことを前提にドラマの放送枠を増やしている。
ドラマの作品数が増えた結果、多様性が復活。実際、放送中の秋ドラマには、トリプル主演の月9ドラマ『ONE DAY』(フジテレビ系)、6シリーズ目でゴールデン進出を果たした『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日系)、諸葛孔明が現代日本に転生した『パリピ孔明』(フジテレビ系)、小池栄子が民放プライム初主演を果たすホームコメディ『コタツがない家』(日本テレビ系)、『silent』のスタッフが手がけるクアトロ主演の『いちばんすきな花』(フジテレビ系)、高校野球がテーマのヒューマンエンタメ作『下剋上球児』(TBS系)など、多彩なジャンルの作品がそろっている。
同様に1クール前の夏ドラマも、長編ミステリー、恋愛群像劇、シスターフッド、離島ヒューマン、マネーゲーム、学園ファンタジーなどの多彩なジャンルがラインナップされた。
このような「各局がさまざまな企画をぶつけて勝負する」という健全な環境を取り戻せたからこそ、『VIVANT』のようなジャンルすらわからない規格外の作品が生まれたのではないか。
海外との戦いで不安なキャスティング
そしてもう1つ、「日本のドラマはつまらない」「海外で戦えない」と過小評価する人々の理由として挙げられがちだったのがキャスティング。現在問題視されているジャニーズ事務所をはじめ、大手芸能事務所のアイドル俳優が重要なポジションを担う「実力より人気優先」のキャスティングに課題があったことは間違いないだろう。
また、熱心な海外ドラマの視聴者からは、俳優全体の演技レベルを疑問視する声すらあがることがあった。確かに俳優の育成・競争における環境面で日本が欧米や韓国に勝っているとは言い難いところがあるかもしれない。
しかし、これまで日本の俳優は「未熟な俳優もいる」「早い段階から主演に据えてしまう」ことが悪目立ちして正当な評価を受けづらい感があった。だからこそ2020年代に入ってアイドル俳優の起用が減りはじめ、ジャニーズ事務所の問題でそれに拍車がかかりそうなだけに、今後はこの点も期待できるのではないか。
そして2010年代の迷走期は、日本ドラマ業界の武器である「脚本家が軒並み高齢化した」という背景もあった。各局が若手脚本家の発掘・育成に力を注いできたのは1987年から『ヤングシナリオ大賞』を続けたフジテレビのみと言っていいだろう。これを他局が軽視したことで高齢化が進み、2010年代の迷走を招いた理由の1つとなった。