大きな期待はせずとも尊敬し信頼する

「大きな期待をしない」ということは、相手に尊敬の気持ちを抱かないということではありません。信用しないことでもありません。

松浦弥太郎『眠れないあなたに おだやかな心をつくる処方箋』(小学館)

僕は、仕事で出会うひとたちから、いろんな刺激をもらってきました。たとえば、同僚や先輩たち、取引先や関係者といったひとたちは、いろんな現場に行って、いま起きている最前線のトピックを知り尽くしています。いま、いちばんおいしいお菓子をつくるパティシエは誰か。この近くで、おだやかな時間を過ごせるカフェはどこか――。四方八方にアンテナを張って、情報の最先端を追いかけて生きている。そんな彼ら、彼女たちから聞く話は、じつに刺激的です。

僕自身の足で情報を集めるのには、限界がありますし、そう簡単に、あれこれと話を聞くこともできません。僕は彼らに深い尊敬の念を抱いています。

僕自身の仕事と直接の関係がなくても、たとえば、みずみずしい野菜を育てる農家のひと、長時間の仕事をしても疲れにくい椅子をつくってくれたひと、体調を崩したときに駆け込めるお医者さまなど、さまざまな側面から僕とかかわり、僕を支えてくれるひとがいます。そうしたひとたちのことを、僕は深く尊敬するし、そのひとたちの存在を忘れないで生きていきたい。

写真=iStock.com/Rawpixel
※写真はイメージです

この世界は「不完全なひとたち」で成り立っている

でも、そんなひとたちだって、完全なひとではないのです。期待をしてもできないことはある。日本で活躍するカメラマンでも、海外ロケではうまく行かないこともある。優秀な医師に、人生相談をしても的外れな答えをされることもあるでしょう。もちろん、どんなひとにも「不完全」なところはあるのです。「不完全なひとたち」で成り立っているこの世界で、尊敬の気持ちを抱きつつ、信頼しあい、風通しよくお互い生きていきたい。完全を求めない。そう僕は考えています。

ひとは自分の思うままにならないのが当たり前なのです。そのひとなりの人生を生きているのですから。

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