奇襲攻撃でアメリカの思惑は一瞬で打ち砕かれた
思い起こせば、3月10日、習近平総書記が国家主席として3選を果たした日、北京では中国を仲介としてサウジアラビアとイランとの関係正常化が発表された。
親アメリカのサウジアラビア(イスラム教スンニ派)と反アメリカのイラン(イスラム教シーア派)が中国の仲立ちで関係を回復させたことは、中東におけるアメリカの権威失墜を意味する。
そこで、「これままずい」と考えたバイデン政権が対抗軸として編み出したのが、サウジアラビアとイスラエルを手打ちさせて、「アメリカ―サウジアラビア―イスラエル」の協力体制を構築することであった。
そして、習近平総書記による巨大な経済圏構想、「一帯一路」に対抗し、インドと中東、それにヨーロッパを結ぶ広域経済圏構想を打ち出すことであった。
そうした中、実行されたハマスの奇襲攻撃は、アメリカの思惑を一瞬で打ち砕いてしまった。
中国にとってウクライナ侵攻以上に参考になる
そればかりか、ここ数日、顕著になっている戦争のエスカレーションは、中国が国際社会に向け、「ほら、アメリカが介入するとろくなことにならないでしょ?」とアピールするには十分な材料になってしまっている。
アメリカと覇権を競う中、習近平総書記からすれば、思わぬ形でアドバンテージとなる材料が転がり込んできたことになる。
事実、ハマスによる奇襲攻撃以降、中国メディアの報道ぶりは異様だ。CCTV(中国中央電視台)は、「これはCNN?」と見まがうほど、1時間ごとに速報や中継を入れ、中国共産党系の新聞「環球時報」も数多くの論評を掲載してきた。
先に筆者は、習近平総書記が「これは面白いことになった」と考えていると個人的な推察を述べたが、これらのメディアの報道ぶりが、習近平指導部がいかに事態の展開を注視しているかを物語っているのだ。
それは、習近平総書記が目論む台湾統一の戦術面に関しても同じである。取材した自衛隊関係者は語る。
「ハマスのイスラエル侵攻は、ロシアのウクライナ侵攻以上に、中国にとっては参考になると思いますよ。台湾侵攻があるとすれば、サイバー戦など侵攻前の数年間の準備に関してはロシア、侵攻直前、あるいは侵攻時の動きはハマスから学べるからです」