懇親会でチャンスを摑む
灘でも、悩む前に行動! の精神で突き進み、ディベート大会やビジネスコンテストに参加。好成績を収めるなど精力的に活動した伊藤さん。
「面白い同級生がいっぱいいて、とても楽しかったです。コロナ禍で制限されたものもありましたが、その中で精いっぱい活動していました」
そのような活動の一環で、東大の工学系のOBと知り合った。そこからのつながりで、たまたま日本のAI研究の最前線を行く東京大学の「松尾研」が開催していた、データサイエンスの大学生・大学院生向けの研修(高校生にも開放)を受けたところ、700人中10人の優秀修了生に選ばれた。このことが東大進学後の運命を大きく変えることになる。
「東大合格後、優秀修了生と松尾教授の懇親会が開かれることになったんです。松尾研で起業の話に触れて楽しそうだと思ったので、具体的に起業するプランがあったわけではないのですが、起業したい! と相談してみることにしました。懇親会では松尾教授に話しかけまくって、食事会も同じテーブルに座って、とにかくやる気を見せました。そうしたら松尾研の関係会社へのインターンを紹介してもらえたんです」
インターンの仕事は営業だった。電話や手紙で営業をかけるなど泥くさい作業だったが、楽しかったと伊藤さんは振り返る。
「面白い仲間がたくさんいて、居場所のように思えたんです。転勤族だったためありとあらゆる場所で僕は“外部の人間”として扱われていたところがあった。だから、自分で関係を築けるあたたかい場所として会社をつくることっていいんじゃないかと思うようになりました」
その後、インターンでエンジニアとして働くうちに起業への関心はより強まっていき、松尾教授に起業している先輩を紹介してもらうところまでこぎつけた伊藤さん。しかし、ここでまた自問自答が始まってしまう。
「たまたま条件が揃って起業ができそうだからする、というのは動機が弱すぎる。自分は本当に起業がしたいのだろうか? と悩んでしまいました。それで、中学の頃に親がしてくれたように、今度は一人で全国の温泉宿を旅することにしたんです」
九州、四国など全国を歩きながら自問自答を続けた。
「結局自分が大切にしたいものはなんなのかということを考え続けながら旅をしました。今振り返ると、このときの僕は起業の覚悟を固めたかったんだと思います」
大学1年生の12月に決心し、翌年2月には松尾研の懇親会で一緒だったメンバーを口説き落としてAlmondoを設立する。
「起業したことは両親には事後報告でした。『そうなんだ、まあ頑張りなさいね』と淡泊な反応でしたね。灘受験も東大合格も全部事後報告でしたが、両親はいつも『滉太なら大丈夫』と信頼してくれているようでした」