マルチジョブ型の酒蔵にどう慣れてもらうか

〈一宏社長によれば、「米が蒸し上がる直前に昼休みのチャイムが鳴ったら、アメリカ人従業員はサッサと休んでしまいました。米が蒸し上がったら、次の作業に素早く移らなければならないのに」と明かす。欧米企業の場合、社員は職務内容を詳細に記したジョブディスクリプション(職務記述書)に則って働く。そして、休み時間も厳格に取る。

日本企業では、マルチジョブ型に複数の職務を担うケースは多い。特に酒蔵の場合、酵母という生物の活動に左右される上、少人数でモノづくりを行っているため、陸上競技に例えるなら、短距離しか走らない選手でなく、幅広く職務を担える十種競技の選手が求められる。〉

――アメリカでは分業が徹底していて、自分の職務以外の仕事はしない、というのが一般的ですが。

【博志会長】いまのところ、製造現場ではそれはないですね。そもそも、0.2%のシェアしかなく、ほとんど飲まれていない日本酒の世界に入ってこようと、応募してきたわけです。ウチのアメリカ人社員は少し変わっているのかもしれません。でも、日本酒への情熱、思い入れは、みんな強いのは共通します。

筆者撮影

「酒づくりとは人づくり、なのです」

――ずいぶん前ですが、スズキ前会長の鈴木修さんが、「自分の工程を考えるだけではダメ。前後の工程も視野に入れ、何より製品の完成形のイメージを工場に働くみんなが共有できれば、モノづくりは強くなれる」と話してくれました。分業にこだわらないで、みんなが最終形を思い描きながら働くのは、日本型モノづくりの強さかと思います。

【博志会長】日本の獺祭は、スズキさんと同じ考え方でつくっています。ハイドパークもいずれは、そうした形にしていきたい。

――旭酒造は、杜氏を設けないで社員一人ひとりが醸造の専門家として酒づくりに従事しています。社員による年間を通して酒を造り続ける四季醸造といった、革新的なつくりを採用し成長を遂げてきました。独自の考え方や、つくり方を、旭酒造がもつ日本酒の文化そのものをアメリカ人社員にも伝承していくのでしょうか。

【博志会長】もちろんです。人種は違っても、よりよいものをつくりたいという、モノづくりに対する考えは、日本人と変わりません。酒づくりとは人づくり、なのです。

いずれ、ハイドパークでの“SAKEづくり”を牽引するアメリカ人リーダーは出てくるでしょうし、育てていきたい。