「バックラッシャー人事」への懸念

最後に。今回の改造人事では、元国民民主党の参院議員だった矢田わか子氏が首相補佐官に起用されたことが大きな話題を呼んだ。野党の元議員を官邸に組み入れたことで、国民民主党と自民党の連立の布石ではという臆測が流れたのだ。

一方、ジェンダーの研究者たちが注目したのは、別の補佐官人事だった。文化人類学者で宗教右派とジェンダー政策の関係に詳しい山口智美氏は、X(旧Twitter)にこうポストした。

「上野通子氏は女性活躍担当の首相補佐官というが、選択的夫婦別姓に反対してきた議員でもある。例えばこれとか

『女性活躍』担当者がバックラッシャーという例は多々あるとはいえ、いつまで繰り返されるのかと思う」

女性政策を「道具」にしているのではないか

この山口氏のツイートを見た時に心底脱力した。これが確信犯的な人事だとしたら、改めて岸田首相はどこまで信念がないのかと思う。かつて夫婦別姓の推進議連に名を連ねていたが、党内の伝統的家族感を重視する勢力におもねり、総裁選の時からその考えを封印してきた経緯もある。

上野氏の政治信条を知らずして起用していたとは考えにくい。だとしたら、片方で女性閣僚5人と喧伝しながら、党内勢力に配慮して、女性政策やジェンダー平等的には後退しかねない人事をする。

しょせん、岸田首相にとって女性登用やダイバーシティは保身と政権維持のための「道具」なのか。岸田首相がどれだけ異次元の少子化や女性活躍に言及しても、空疎にしか聞こえないのは、こうした浅はかさが透けて見えるからだ。

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