危機に女性を登用する「ガラスの崖」
女性の登用においては「ガラスの崖(glass cliff)」という概念がある。経営不振や不正などにより組織が危機的な状況の時ほど、女性がCEOなどトップの地位に置かれやすいという考え方だ。危機の際にはさまざまな困難に直面することになり、その分失敗のリスクも高い。失敗すると、「だから女性はトップに向いていない」と言う偏見を生み出しかねないと指摘をされている。
古くは業績不振だった米ヤフーがグーグル副社長のマリッサ・メイヤー氏をCEOに招聘したり、最近ではイーロン・マスク氏が経営を握って混乱しているX(旧ツイッター)のCEOに、NBCユニバーサルの広告担当責任者を務めていたリンダ・ヤッカリーノ氏を招いたりしたケースが当たる。日本でも2021年、オリンピック・パラリンピック組織委員会会長を務めていた森喜朗氏がいわゆる「森発言」によって辞任した後、橋本聖子氏が後任に就任した例が近いだろう。
G7直後に一瞬浮上した岸田政権の支持率は、その後マイナンバーカードの混乱などもあって、低迷している。今回の内閣改造は支持率回復が動機と言われ、イメージ刷新のために過去最多タイの女性閣僚を5人登用してみせたのだろう。
副大臣・政務官54人中「ゼロ」の衝撃
動機がどうであれ、それでも私は世界最低ランクの政治分野のジェンダー格差を是正していくには数を増やすことは必要だと思う。数が増えれば見える風景も変わってくるからだ。どうせ刷新するなら、「ジェンダー不平等を解消する」と宣言して、一気に過去最高の6人、7人登用すればもっとインパクトはあったはずだ。
だが、自民党内の男性議員たちの反発を恐れてそこまでも踏み切れない。上っ面の「刷新感」だけ出そうとするから、言い訳のように「女性ならでは」などという古臭い理由を述べ、結果的に女性閣僚たちは「ガラスの崖」的な位置付けになってしまったと思う。
見せかけの「女性登用」の崩壊は、その後の「びっくり人事」で確定的になった。
朝日新聞は9月16日朝刊一面トップで、「副大臣と政務官、初の女性ゼロ 閣僚5人から一転、男性54人」と報じた。この記事の扱いからもニュースの衝撃度がわかる。朝日新聞の調べでは、2001年に副大臣・政務官制度が導入されて女性ゼロは初めてだという。
閣僚だけ増やしておけば女性の積極登用というイメージがつき、あまり注目されない副大臣・政務官ポストで女性がゼロになろうとも見過ごされると思ったのだろうか。