非営利団体からの依頼メールにモヤモヤした理由

以前、私と同じく講師業をしている知人女性Iさんから、観察力について考えさせられるエピソードを聞いたことがありました。

内容をざっくりと説明すると、その女性Iさんは、10年以上の研修講師歴があり、一度、講師を担当すると、数々の企業からリピートで仕事を依頼されるほど評価され、多くの実績のある方です。そんなIさんに、ビジネススキルに関連する非営利団体の担当者を名乗る方から、通常の研修報酬の10分の1ほどの条件で、講演の依頼のメールが届きました。

ちなみに、Iさんがその団体と関わるのは初めてであり、非営利団体ではあるものの講演会の参加者は数千円の参加費を払うという趣旨だったそうです。彼女が受け取ったメールにこんな一文がありました。

「今回の講演は、Iさんにとって、良い経験にもなるかと思います」

結局、Iさんのスケジュールが合わず、丁重に断ったそうですが、彼女はモヤモヤとした気持ちを私に話してくれました。その非営利団体が主催する講演会で参加者に参加費を請求していたり、その参加費の用途が不明確だったことも、すっきりとした気持ちになれなかった理由の一つだったと言います。なによりIさんがモヤモヤとした理由は、メールからあからさまに伝わる違和感でした。

写真=iStock.com/Chattrawutt
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「上から目線で傲慢な人」と思われる

まず、初めて仕事を依頼するメールだというのに、団体の紹介や、なぜIさんを選んだのかさえ書かれておらず、「お世話になっております」(まだ『お世話』になっていないのに)から始まる、一般的な定型文からなる、わずか数行ほどの軽い文章で講演の依頼をしてきたことです。

初めての相手に対する依頼のメールでは、正確な情報で自分を名乗り、熱意と礼節をバランス良く文章や内容に組み込むことは、対人関係における基本です。そうした基本を省いたり、惜しむことは、準備が杜撰で、面倒がっていることが明らかで、相手から信用される可能性を低くしてしまうだけなのです。そして、その基本からかけ離れている内容として着目したいのは「Iさんにとって、良い経験にもなるかと思います」という文章です。

これでは、書き手が上から目線で、傲慢ごうまんな人だという印象を与えかねません。実際にどのような経験にしても、講師として自発的にいろいろなことを吸収したほうがいいでしょうし、ましてやIさんのような謙虚な方でしたら、会ったこともない相手から、わざわざ言われる必要もなく、常に積極的な姿勢で現場に臨むはずです。ちなみに「あなたにとって、これは良い経験になりますよ」と相手に伝えるのは、立場や年齢に関係なく、余計なお世話であるという認識も必要です。

また、たとえ受け手と信頼関係があったり、必要な情報を与えられる専門家であっても、「良い経験になるかもしれませんね」と表現を柔らかくしたほうが押し付けがましくない印象が残ります。