野田は解散せずに先に法案を国会に提出した。自民党はどう対応すべきか、党内で議論になった。大島が続ける。
「伊吹さんを中心に、野田税調会長、町村信孝さん(元外相)らで協議して出た結論は、わが党の社会保障の基本的な考え方を民主党が呑むなら合意を目指すということ。その結果、民主党は一本にならないし、必ず民意を問う状況をつくれるという認識に立って総裁の下で判断した。それで3党合意まで歩んできた」
3党合意の成立の後、野田政権は国会の延長を決め、まず6月26日に衆議院で増税法案の採決を行った。民主党では造反組57人が反対票を投じたが、民自公3党などの賛成で可決した。
7月2日、法案に反対した小沢ら衆議院議員38人と参議院議員12人が民主党を離党する。11日、小沢は衆参49人で新党を結成した。民主党は政権獲得から2年10カ月で大分裂となった。
社会保障と税の一体改革と呼んでいるように、今回の消費税増税計画は社会保障のあり方という問題とセットになっているが、この点で民主党と自民党は基本的な考え方が大きく隔たっている。「小沢の知恵袋」の平野貞夫(元参議院議員)が小沢の内心を明かす。
「3月30日に執行部側はごまかして法案の国会提出を決めるけど、小沢さんはそこで党を出るという決断はしない。その後、野田首相との会談があったが、ここでも終始、一時棚上げを言っている。『増税法案には必ず大きな反発が出る。まだ間に合うから棚上げを。そうすれば政権をフォローするから』と言い続けている。6月8日に2人で食事をした際、小沢さんは『とことんまで詰める必要がある。説得するのが自分の義務だ』と言っていた。政権交代を実現させたのは自分という思いがありますから」
1週間後に3党合意が成立した。
「合意の中身は、民主党の社会保障改革をまったく無視した。根本的な最低保障年金を否定した。これはイデオロギーの問題。これを放棄したら、民主党はおしまい。もう国民に言い訳ができないということで反対を声明するわけです」