日本は人材をつくる学校教育が時代遅れで、人材の受け皿となる企業側も危機感が足りない。どちらも問題だが、より罪深いのは学校教育のほうだ。

20年から小学校でプログラミング教育が必修化され、22年から高校で「情報I」が新設・必修になった。ITの教科書は「デジタルとは0と1の二進法で成り立っており……」というように、「デジタル」の定義から始まっていて、まったく実践的ではない。英語をまず耳や口から教えるのではなく、和訳、英訳、文法中心に教えるのと発想は変わらない。文科省に任せると、すべてがこの調子になる。

プログラミングは言語である。その教育はデジタルの定義を解説するより、ゲームづくりなど実際に手を動かすところから始めたほうが理解は早い。

実践的な内容を学ばなければ時間のムダ

これは、私が当時中学生だった次男の広樹に家庭教師をつけたときの話だ。家庭教師は私が連れてくるよりも、広樹に選ばせたほうがいいと考えて任せたところ、英語や数学ではなくプログラミングの先生を連れてきてしまった。先生はソフトウエア開発を受注している小さな企業の経営者で、いきなり実践的なことを教えてくれた。広樹はそれを吸収してメキメキと腕を上げた。

写真=iStock.com/gorodenkoff
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広樹は学校の勉強に関心がなく心配だったが、本人は「プログラマーで食える」と言って高校に行かずにアメリカに行ってしまった。実際、当時中学生ながらIBMの副社長に「うちに来ないか」と誘われるくらいのスキル(稼ぐ力)を身に付けていた。アメリカでは高校を飛び級で卒業し、USC(南カリフォルニア大学)の難関コンピューターサイエンス学部に入ったが、これも気に入らずにやめてしまった。

広樹はその後もゲーム開発プラットフォームをつくり続け、いまではユニティ・テクノロジーズの日本社長だ。私が主宰する経営者の勉強会にドワンゴの創設者である川上量生氏を招いたことがあるが、川上氏をして「うちの業界で大前研一は無名。大前と言えば広樹しかいない」と言わしめる存在になっている。広樹とプログラミングの出会いが学校だったら、ここまで実力はつかなかっただろう。実践的な内容を学ばなければ時間のムダでしかない。

英語にしろITにしろ、文科省に教育を任せていては、21世紀に世界で活躍できる人材は生まれず、日本はますます衰退していくだろう。学習指導要領に拘泥して教育を妨げる文科省を解体して、ゼロから日本の教育システムを構築することを提言する。

(構成=村上 敬)
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