「政権交代」だけではもはや国民には響かない
1つは、多くの国民は今の政治を肯定していないこと。国会では自民、公明の与党が圧倒的多数だし、また日本維新の会に勢いがあると言われていますが、ほとんどの人はそんな政治に納得していない。みんな現状にいら立ち、諦めてしまっています。
2つ目は、「政権交代」という言葉はなかなか響かない、ということ。あれは2009年(民主党政権の誕生)で終わったのです。
「自民党政権はダメだから、政権交代しよう」ということで、2009年に民主党政権が誕生しました。でも、民主党が期待に応えきれなかったのは間違いありません。
今は永田町以上に、国民の方が「ただ政権が変わればいい、というものではない」ことを、よくわかっています。だから「政権交代」だけを掲げても、全く反応しません。
では求めているのは何か。それが3つ目に感じたことなのですが、国民が不満を抱いている本質は、目の前の一つひとつの政策課題についてではない、ということです。
例えば今だったら「紙の保険証の廃止に反対」という声があります。でも、単にそのことに対応すればそれでいいのか、というと、そうではありません。国民は、保険証問題に象徴される社会構造にいら立っているのです。だから、個別のテーマに振り回されても、国民のニーズに応えたことにはなりません。
国民が求めているのは各論ではなくビジョン
もちろん保険証廃止のような個別のテーマもやらなければいけませんが、単発の問題に一つひとつパッチワークのように対応するだけでは、国民の期待は集まりません。「この国全体をどうしてくれるのか」という問いに、自民党は答えていないし、われわれも答えを伝えきれていません。だから国民は自民党に不満を抱いているし、一方でわれわれがいくら「政権交代」を叫んでも反応しません。
国民が求めているのは各論ではなく、理念であり、ビジョンなのです。
私は立憲民主党の結党以来、理念やビジョンを語ることの大切さを強く訴えてきました。2年前の2021年には『枝野ビジョン 支え合う日本』(文春新書)という著書も発表しました。でも、それらは私が期待したほどには伝わっていませんでした。発信の仕方に問題があったのです。
理念を訴えることを、もっと徹底しなければいけなかった。それが、代表を辞めた後の2年間の実感であり、反省点です。
「私たちは何者なのか」ということ、つまり党のアイデンティティー、理念やビジョンを、もっともっと繰り返し強く発信しないといけません。
こういうことは既存のメディアではなかなか取り上げられません。報道は「新しいこと」を追うのが仕事なので、同じことを繰り返し言っても、ニュースにはならないのです。
それでも、例えばテレビのニュースで発言が15秒くらいで切り取られる時、そこで使われやすいフレーズを、普段から繰り返し使っていかなければいけませんでした。
われわれがこれまで掲げてきた理念そのものが間違っていたとは思いません。伝える手段、伝える能力、伝える意欲に問題があったと考えています。