「プロ野球選手になりたい」ではダメ
大学時代、佐々木はコーチ修業と同時に、読書に目覚めていた。もともと本好きであったため、「時間もできたし、指導の役に立つかもしれないから」と大量の本を読むことにしたのである。勉強になったのは野球の本よりもビジネスや自己啓発の書籍。ナポレオン・ヒルや中村天風といったその道の大家の本を読みまくった。
その結果、わかったことは「どの本も結局、同じことを言っている。全ては同じところに行きつく」ということ。「同じところ」とは「目標の立て方と夢の持ち方」「それをどう実現するか」の2つ。そのため、選手にも「目標設定」を課したのだ。
特徴的なのは藤原の言葉にあるように「あと何日」など「数字」を重視したことである。
「今日、何をするか。1週間、1カ月後も。卒業して1年後、3年後、5年後、10年後、自分がどうなっていたいかも書きました。最初は目標設定をする意味がわからなかったんですけど、やっていくうちに少しずつ自分の中でも『こうなりたいから、これをする必要があるかな』と考え方が変わっていくことを実感できたんです」
設定する目標自体も、たとえば「プロ野球選手になりたい」「銀行員になりたい」という表現はNG。どの球団でプレーしたいのか、どの銀行に入りたいのかまで書かせる。実際に入れるか否かは別にして、なるべく具体的に、明確にした方がそこに近づけるという考えからだった。
打力を補う細かなプレーの練習を強化
一方、グラウンドでの練習も変化した。
「細かなプレー一つひとつにすごく時間をかけて練習するようになりました。牽制や挟殺プレー、ディレードスチール、トリックプレー、セーフティスクイズなど。相手をねじ伏せるような打力がなかったので、いかに出たランナーをホームにかえすかにすごく時間をかけました。私の場合、セーフティスクイズなどは存在すら知らなかったので、新しい野球というか、自分たちが見てきた野球を変えてくれたというか、野球の深さを学びました」
それらはトップレベルの強豪校がしのぎを削る神奈川の高校球界での経験が活きているのだろう。カバーリング、バックアップの徹底は、横浜隼人の「お家芸」である。
「非常に細かくいろいろなカバーリングやバックアップを全力疾走で行うようになりましたね。私は投手ですが、走者なしでセカンドにゴロが飛んだら、投手も捕手とは別の方向へファーストカバーに走る。そんなの初めてで最初は疲れました。とにかく投げ終わって、ずっとマウンドにいるということがないんです。種類が多すぎて今は覚えていないくらい(笑)」
さらにはウエイトトレーニング。
「今も学校にはウエイト器具があると思いますが、あれは監督が就任直後に揃え始めたものです。強豪校との体格差を感じていたんでしょうね」