畑村式文章術

工学院大学教授
東京大学名誉教授
畑村洋太郎

1941年、東京都生まれ。66年日立製作所入社。68年東京大学工学部助手。83年同教授。2001年畑村創造工学研究所開設。著書に『技術の創造と設計』『みる わかる 伝える』ほか。

私の場合、アウトプットした文章を寝かせるのではなく、書く前に思考を熟成させることを意識しています。印象記を見学後1週間から10日経ってから書き始めるのも、その間にじっくりと考えを煮詰めるためです。

いきなり書き始めると、インパクトが強いだけの情報に思考が振り回されることがありますが、時間を空けると、余分なものが削ぎ落とされて大事な情報だけが残ります。もちろん情報を寝かせている間にも、思考はフル回転しています。

ビジネスマンに置き換えて説明しましょう。思考を熟成させるときは、まず自分より1つ上のポジションで事象を捉え直します。課長なら部長、部長なら役員になったつもりで、「上の立場ならどう判断するだろうか」と考えるわけです。

自分なりに考えがまとまっても、そこで終わらせてはいけません。次は自分の横にも目を向けます。もし自分が課長なら、「ほかの課長はどう考えるだろうか」「ほかの会社はどう見ているだろうか」というように、横展開するのです。

横へのスライドはいっけん簡単に思えますが、一段上に登って視野を広げなければ、横にどのような世界が広がっているのか、よくわからないはずです。山の頂上に登ったからこそ、まわりにある森や川の存在に気づく。上と横に視座をずらして考え直すことで、思考はさらに深まるのです。

(村上 敬=構成 相澤 正、熊谷武二=撮影)
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