自動車の普及が「凍らない水」を生んだ
20世紀のはじめ、エチレンやプロペンなどの石油製品の需要が増大していたのには理由があります。
1913年に始まった「T型フォード」の大量生産による自動車の普及で、自動車用の化学品、冷却水に加える不凍液のエチレングリコールHOCH2CH2OHや速乾性塗料のニーズが激増していました。
はじめはエンジンの冷却水に水を使っていましたが、寒冷地では凍結して故障が続発しました。そのため、水にエチレングリコールを加えて、氷点下でも凍結しない不凍液が発明されました。
1923年には、アメリカのデュポンがニトロセルロースをもとにしたラッカー塗料を開発しました。ニトロセルロースは綿や木材の成分であるセルロースを硝酸で処理してつくる物質で、セルロイドや無煙火薬などの原料です。
実はマニキュアも同じ
ラッカー塗料とは、色の成分(顔料)とニトロセルロースを溶剤(シンナー)に溶かしたもので、溶剤が蒸発したあとに顔料と樹脂が塗膜として残ります。
マニキュアも同じで、ニトロセルロースを酢酸エチルに溶かしたものです。酢酸エチルは接着剤の溶剤としても使われていて(その独特の匂いが酢酸エチルの匂いです)、パイナップルやキウイなどのフルーツの香りの成分でもあります。
スプレーで噴射して速く乾くラッカー塗料が自動車塗装に利用され、それまで数日間かかっていた塗装工程が数時間に短縮されます。溶剤の需要が激増して、溶剤になるイソプロピルアルコールがガソリンと一緒に製造できるようになって一石二鳥となりました。
自動車産業の発展が、ガソリンやエンジンオイル、不凍液、窓ガラス、ゴムタイヤ、樹脂などの開発、製造をうながし、化学工業発展の原動力になったのです。