しかし、不幸要因についての質問では、逆の傾向が読み取れる。幸せを感じない要因について尋ねると、どの階層でも人間関係よりお金を挙げた人が多く、とくに下流は8割を超えた(図27)。結局、幸福はお金と切っても切り離せないのか。袖川氏はこう解説する。

「たしかに物質的な豊かさと幸福には強い相関関係があります。しかし、物質的豊かさがある程度満たされると、それ以外の要因が強く影響します。いわばお金は幸福の前提条件。足りなければ不幸の要因になり、ある水準に達すると、幸福にそれ以上寄与しなくなるのです」

そう考えると、生活に困っていない上流が幸福要因として人間関係を挙げ、厳しい生活を強いられている下流が不幸要因としてお金を挙げるのも納得だ。将来への希望・不安に関する質問でも、上流は家族に希望を見いだし、下流は金銭を不安要因として挙げている。生活を安定させて、はじめてお金以外の部分に幸せを感じる心のゆとりをもてるのである。

ただ、いまや世界経済の中で日本は埋没し、生活水準を上げるどころか維持することすら怪しい時代に突入しつつある。現在上流の人でさえ今後も幸せの前提条件を満たし続けることができるとは限らない。そんな時代に、私たちは幸福を得ることができるのか。上流下流が幸福を感じる要因を次回さらに掘り下げてみよう。

※すべて雑誌掲載当時

(右)甲南大学経済学部准教授 森 剛志●1970年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、京都大学大学院博士課程修了(博士号取得)。日本学術振興会特別研究員を経て、現職。主な著書に『日本のお金持ち研究』(共著)など。

(左)電通 ソーシャル・プランニング局プランニングディレクター 袖川芳之
1963年生まれ。京都大学法学部卒業。マーケティングを専門領域とし、電通総研主任研究員、内閣府経済社会総合研究所企画官などを歴任。
(小原孝博、浮田輝雄=撮影)
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