今、医師をザワつかせる定石ではない医療漫画2作

今、SNSなどで話題になっているのはこのような医療漫画の定石にあてはまっていないのだ。例えば、「高齢者の高額公費医療」を問題提起したり、「手術のド下手な外科医」が主人公となったりする。筆者の周囲の医師にもファンが多い2つの異色作を紹介しよう。

●灰吹ジジ(原作)/中西淳(漫画)『王の病室』(ヤングマガジン連載中・講談社)
灰吹ジジ(原作)/中西淳(漫画)『王の病室』(ヤングマガジン連載中・講談社)

この『王の病室』の真骨頂は、リアリティである。例えば、救急の患者について。

無料公開されている第1話「蘇生の代償」は以下のように始まる。主人公である総合病院の研修医が当直中に、救急車で運ばれてきた「ショック状態の85歳男性」に対応する。上司は心臓マッサージを命じるが、それだけでは死亡しかねない状態だったので、気管内挿管を行い人工呼吸器に接続することで一命を取り留める……が上司の反応はいまひとつ。駆けつけた家族も喜んでいない。

「命を救うのが医療でしょう!」と研修医は反論するものの、他の指導医も賛成してはくれず、上司は「この日本というイカれた医療システムの国では……適度に殺すのも医者の仕事だ」と言い放つ――。

出典=『王の病室』第1話:蘇生の代償

救急救命系の医療ドラマには、24歳女性・自殺未遂、19歳男性・バイク事故といった患者が病院に運び込まれるようなシーンがしばしば登場する。実際、そういう急患も存在する。しかし医療現場に従事する筆者のような医師がドラマを見て思うのは「現実の救急外来の患者は、こんなに若くない」である。本当は、88歳女性・食欲不振、97歳女性・認知症で徘徊はいかい中に転倒といった事例が多数を占めるのだ。

ついでに言えば、「救命してもなぜか家族には喜ばれないことがわりとある」「だからドラマのように熱くなれない」。そんな気持ちになる医師は筆者だけではない。